第1278話 カエソーの拒絶
統一歴九十九年五月十一日、夜 ‐
ティフはカエソーを立ったまま見下ろし、口をへの字に結んだ。カエソーの言ったことをどこまで信じていいのかわからない。《
可能性があるとすればペイトウィンのように何か強力な
ハッタリか?
いや、そういう存在が居るのは間違いない。
だが、そんな奴と
大協約体制下のヴァーチャリア世界においてムセイオンに知られることなく強力な魔導具を所持するなど、おおよそマトモな人間ではない。裏社会の人間か、あるいは大協約体制に組み込まれていない蛮族かだ。しかしカエソーもルクレティアもその人物とは知り合いで話もしたことがあるという。
カエソーもルクレティアも
何かがおかしいぞ……
ティフが悩んでいる間に従兵が飲み物を持ってきてカエソーの前に差し出した。香茶ではない。酔い覚ましのための
カエソーは嬉しそうに舌なめずりして茶碗を手に取ると、シュワシュワと泡立つ炭酸果汁飲料を
「失礼だが、閣下の
《
つまり土着の
カエソーは茶碗をテーブルに置き、上体を伸ばしてティフを見上げる。
「ご賢察の通り、かの《
さる人物が使役なさっておいでです」
「信じられんな!」
ティフは口元を歪め、半歩踏み出した。
「何がでしょうか?」
「閣下はウァレリウス氏族であろう!?
レーマ帝国きっての名門有力貴族だ」
呆気に取られていたカエソーは両眉を持ち上げると、半開きの口を閉じることもせず無言のまま頷いた。
「あの《
だが人間でそんな魔力を持つものなど存在するはずがない。
ママ……大聖母フローリア・ロリコンベイト・ミルフ様だってそんな魔力は持ってないんだ!」
突然演説し始めたティフをポカーンとした表情のまま見上げながら、カエソーはテーブルの茶碗を手に取り、もう一口啜る。
「だが強力な
そうすれば人間でも、あの強力な《
しかし、そんな強力な
そもそもそんな
つまり、《
マトモな人物ではないの一言でティフ以外の全員に緊張が走った。カエソーと室内にいたホブゴブリンたちに至っては不快そうに表情を
「レーマ帝国を代表する
そのような話を信じろという方が難しいのではないか!?」
ティフはニヤリと笑った。カエソーが表情を強張らせたのは図星を突かれたからだと思い自信を得たのだ。とはいっても今は敵中、目元には緊張が残っていたのでティフの笑みは見る者の目にはひどく邪悪なものに映ってしまう。
「閣下にしても、マトモではない人物をムセイオンの聖貴族ティフ・ブルーボール二世に紹介するわけにはいかないから、先ほども断ったのだ!
どうだ、違うか!?」
勝ち誇るティフを見上げたまま、カエソーは茶碗をテーブルに置くと背もたれに背を預けてふんぞり返った。
「違いますな」
「なに!?」
表情を消したカエソーの短い一言にティフは我が耳を疑った。
「
その御方に関する報告はムセイオンへ先月送付済みです。
ムセイオンに知られていないのは、その御方に関する報告がまだ届いていないからにすぎません」
「マトモな人物だって言うなら隠すことないだろ!?
教えろ!!」
「ダメです」
「何でだ!?」
カエソーは何か
「まず現時点で
今度はティフが目を剥き息を飲んだ。
「盗賊どもを率いてレーマ軍を攻撃し、ブルグトアドルフの住民を多数
おかげで私自身も死にかけたというのに、そのような危険人物をおいそれと高貴な人物に紹介するわけにはまいりません」
あくまでも冷静な口調で断言すると、カエソーはすっくと立ちあがった。ティフは思わず半歩後ろへ下がる。
「こ、交渉の余地は無いというつもりか?」
上ずった声でティフが尋ねると、カエソーは両手を腰に当て胸を張って答えた。
「ありません。
少なくともその御方への御紹介は無理です」
ティフは目をそらし、舌打ちでもするように口元を歪ませた。
「他に要求はありませんか?
ではこちらから……」
「ま、待て!」
カエソーがレーマ軍側からの要求を告げようとすると、ティフは慌てて遮った。
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