第1417話 ゴルディアヌス失神
統一歴九十九年五月十二日・午後 ‐
リュウイチは思わず頭を抱えそうになった。《
ルキウスが言った
例外はアルビオン海峡を
とまれ、《風の精霊》に人間社会の規範意識や道徳観念を期待するのは無理だ。無謀ではなく無理なのだ。リュウイチはそこまで悟ったというわけではないのだが、《風の精霊》の感覚がリュウイチの常識から根本的なところで大きくずれていることに気づくことぐらいはできていた。ここでこれ
『ゴルディアヌス』
「へっ!? ヘイッ!」
ビクッと身体を震わせたゴルディアヌスにリュウイチは違和感を覚えた。
『《
リュウイチの声色が急に変わり、ネロとロムルスの注意もゴルディアヌスに向いた。ゴルディアヌスはというと顔は青ざめ、玉のような脂汗を顔じゅうに浮かべ、意識が
「で、
うわごとの様に答えるゴルディアヌスは誰がどう見ても大丈夫じゃない。リュウイチは思わず立ち上がった。
『ロムルス、椅子を用意しろ!』
「ハッ!!」
『ゴルディアヌス、椅子を用意するから座るんだ!
ネロ、ゴルディアヌスにこのポーションを』
ロムルスに椅子の用意を命じたリュウイチが立て続けにゴルディアヌスに全ての状態異常を回復する万能薬を用意しようとすると、ネロはリュウイチの意図に気づいて慌てて止めた。
「
大丈夫です、自分が良いのを持ってます!
ポーションは御仕舞ください」
そう言うとネロはリュウイチの方ではなくゴルディアヌスの方へ駆けだした。いくら自分の
立ち
「ゴルディアヌス、後ろに椅子がある。
座るんだ。いいか?
ゆっくりだぞ? ゆっくり……」
相変わらず「
「ど、どうしちまったんだコイツ?」
ゴルディアヌスを座らせて一歩引いたロムルスが呆れたように言う反対側で、ネロはゴソゴソと腰の
「ゴルディアヌス、
しっかりしろ、ゆっくり吸うんだ」
ネロは蓋を開けた小物入れの更に内側にあった捻じ込み式の蓋を開け、ゴルディアヌスの鼻先に近づける。その様子を見たロムルスは興味深そうにはしながらも、そこから漂ってくる異臭に顔を
「よくそんなモン持ってたな……」
気付け塩【
炭酸アンモニウムは刺激臭によって交感神経を刺激し、興奮状態を引き起こすもので、失神状態や今のゴルディアヌスの様に意識が不明瞭な状態に対して有効なことで知られており、気付け薬として普及定着していた。ネロの場合は更にこれを嗅ぎ薬として効果を発揮しやすいようにアルコールに溶かし、スズ合金の小瓶に入れて携帯していたのだった。
「いつ必要になるか分からないからな。
軍人なら、常備しておくべきだろう?」
ゴルディアヌスが意識が回復する兆しを見せたところで、ネロはロムルスに応えながら気付け塩の容器に蓋をする。
「それにしたって……」
お前もう軍人じゃないだろ……とはさすがのロムルスも続けなかった。
ガラスが普及しておらず、ステンレス鋼もチタン合金も存在しない
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