第636話 リクハルドの相談
統一歴九十九年五月七日、昼 -
案内された
「昨日の今日で早速御目通りをお許しいただき、感謝感謝だぜ
入室して型どおりの挨拶を交わした後、リクハルドがそう言うとアルトリウスはチラリとクィントゥスの方を見た。クィントゥスが報告をアルトリウスに上げてきたのは今朝のことだったからだ。だが、クィントゥス自身もリクハルドからの連絡を受け取ったのは今朝になってからであり、彼に落ち度があったわけではない。クィントゥスが無反応のままでいると、アルトリウスはひとまずそのことを置いといてリクハルドに返事をする。
「例の件に関して急ぎでということでしたからな。
しかもリクハルド卿が直々にとなれば、いつでも時間は作りますとも。
まあ、お掛け下さい。
私に直に質問と相談があるということでしたが、何か問題でも生じましたか?」
アルトリウスは部屋の中央に置かれた
普通、
そんな多忙極まるアルトリウスに面会しようと思ったら、ただ単に身分が高ければ会ってくれるということにはならなくなる。貴族社会である以上、身分の上下はもちろん影響しないわけではないが、それ以上に用件の重要性によって面会の優先順位を決めざるを得なくなる。だが、アルトリウスはいの一番でリクハルドの面会を認めた。
つまり、リュキスカの件はそれだけ重要ってことだ‥‥‥
「問題っちゃあ問題だ、俺っちにとってはな。
だが
椅子に腰を下ろしたリクハルドはうっすら笑みを浮かべ、勿体ぶるようにそう切り出した。そのリクハルドを見ながらアルトリウスは自らも対面の椅子に腰を下ろし、クィントゥスはその傍らに警護をするように立つ。
「どういうことですかな?」
「俺っちはアレだ、リュキスカの件を揉み消すように仰せつかったわけだな?」
「その通りです。」
「ところがだ、どうも
アルトリウシア中の
ニヤケを残したまま困ったように眉を寄せるリクハルドの顔を見ながら、アルトリウスはわずかに顔を
リュキスカはリュウイチの
リュウイチのこともリュキスカのことも一般には伏せられたままだが、今アルトリウシアにいる主要な
「何でもぉ~?
リュキスカが例の高貴な御方に
「ウッ、ウンッ!」
アルトリウスはわざとらしく咳払いをしてリクハルドの発言を中断させる。
「リクハルド卿、詳細はまだ言えないが、たしかに少なからぬ
それはこちらの手落ちです。」
「なあに、イイって事よ!」
アルトリウスが頭を下げようとする直前、リクハルドは大きな声を出してアルトリウスが頭を下げるのを未然に制止する。そして
「向こうが既に知ってるってぇんならそれ以上隠しようがねぇし、意味もねぇ。
別にそんなこたぁ大した問題じゃねぇさ。
要は
問題ねぇよ、そんなことぐれぇでわざわざ閣下に文句を言いに来たわけじゃねぇさ。」
リクハルドがどこか満足したように一気にそう言うと、アルトリウスとクィントゥスは一瞬、互いに目を見合わせた。
「で、ではリクハルド卿、他にいったいどのような問題が?」
「何、
それにリュキスカのこと調べてくれってのもよ、俺っちに言ってくれる分にゃあ何とかすらぁな。
だが、俺っちの《
「と、言いますと……」
「考えてもみてみねぇ。俺っちと手下どもがせっかくリュキスカの噂ぁ抑え込んでんのによ?そいつらがあっちこっちでリュキスカんコト訊いて回りやがんだ。
これじゃあ、俺っちがどれだけ住民どもにリュキスカんコト忘れさせようとしても、そいつらのせいで噂がいつまで経っても消えやしねぇ。」
リクハルドが上体を起こし、さも面倒に巻き込まれて困っているという風に両手を広げて見せると、アルトリウスは小さく唸った。
確かにリュキスカに関する噂話が広がらないようにしなければならないのに、リュキスカの事を訊いて回られたらその度に訊ねられた者はリュキスカのことを思い出すだろう。そして人々はリュキスカの噂を口にすることになる。これではリクハルドがどれだけ頑張ろうと噂が消えることなどあり得ない。
「なるほど、確かにそれは困りますな。」
「だろぉ!?」
理解してもらえたことに安心したのか、リクハルドは広げていた両手をポンと自分の膝の上に置き、顔を少し前に突きだしてそう言った。
「では、そのようなことをしている
「ああ、一人は分かんねぇが、一人は分かってる。
いや、二人とも当たりは付いてんだが、片っ方はどうも黒幕が別にいるみてぇでよ?」
「二人ですか?
誰です?」
再び、リクハルドは
「一人は、ルクレティウス・スパルタカシウス様よぅ。」
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