第1404話 ルキウスの説明(2)
統一歴九十九年五月十二日・午後 ‐
「リュウイチ様には助けていただき、大変感謝しておるのです。
リュウイチ様のような
ルキウスにそう言われたリュウイチは無意識に周囲を見回した。リュキスカとネロたち、そして正面のルキウス以外は皆軍人たちばかりだが、背後にいるせいで見えないネロとオト、そして隣でずっと我関せずの態度で胸に抱いた赤子フェリキシムスを構い続けるリュキスカ以外は全員がリュウイチに愛想笑いを向けている。それが一種の社交辞令だとは分かっていても、リュウイチは自分がいつの間にか卑屈な考えに囚われていたことに気づき、恥じて苦笑いを噛み殺した。
「私が言いたかったのはそうではありません。
大協約の法的な不備は、おそらく意図して作られたのです」
リュウイチは
『わざと?』
既に
「
そう言うとルキウスはゆっくりと慎重に体重を背もたれに預け、フーっと息を吐き、皮肉めいた笑みを浮かべた。
「つまり、美味しいところまで諦める気は誰も無かったということでしょうな」
ルキウスの顔に浮かんだ笑みは、御大層な大義名分を掲げながら我欲を捨てられなかった当時の王侯貴族らを
『ルクレティアやリュキスカの扱いが大協約の中に定められていないのは分かりました。
じゃあ、彼女たちはどうなるんです?
ルクレティアは多分、魔法や
でも、使っちゃいけないとも思っています。
彼女たちが魔法や
リュウイチから魔導具を貰ったルクレティアの浮かれっぷりは誰の目にも明らかだった。リュウイチには目立たないように、力を使わないようにと散々言っていたが、子供のころから憧れていた存在に実際になれるチャンスを目の前にして平静を保つには十五歳という年齢は幼すぎる。聞くところによれば、シュバルツゼーブルグやブルグトアドルフの人たちの前では
「おっしゃるようにルクレティアが魔法や
今、ルクレティアが
それも、世に混乱を招かないよう、帝都レーマからの指示を
『ルクレティアが魔法や
「リュウイチ様、アナタもですよ」
ルキウスは背もたれに預けた身体をのっそりと起こす。
「禁じられているのは魔法や
《レアル》の
リュウイチは何か肩透かしを食らったような気になり、怪訝そうな表情を浮かべた。
『でも……皆さんは私に魔法とか使わないでほしいと……』
戸惑った様子のリュウイチにルキウスは可笑しそうに、だが同時に困ったように笑った。
「それは我々が困るからです」
『……困る……』
「ええ、リュウイチ様の御力は大変強力です。おそらく、歴史上登場した他の誰よりも……そのような力を振るわれれば、我々は成す術がありません」
『じゃ、じゃあ自由に使っていいのなら、『勇者団』のこともハン族のことも私や精霊たちの力で解決してしまって良かったのではありませんか!?』
盗賊団を使って混乱を巻き起こした『勇者団』も叛乱を起こした
だがリュウイチの発言は力を行使しようとする意思の表明でしかない。軍人たちは一斉に顔を強張らせ、ルキウスとリュウイチの間で盛んに視線を往復させる。このままリュウイチが何か行動を起こすことになれば、これまでの苦労が……ルキウスは全員の視線が自分に集まっていることを感じながら溜息をついた。
また、悪い癖が出て調子に乗ってしまったか……
「リュウイチ様がそれを欲し、それを成すというのなら我々にはどうすることもできません。
ですが、できればお控えください」
ルキウスが表情を少し引き締め、厳かな調子でそう言うとリュウイチは口を真一文字に結んだ。
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