第598話 探されていたエルゼ
統一歴九十九年五月六日、昼 -
「あ、ちょっとロミーさん!
いたよ!やっぱりこっちに居た!!」
エルネスティーネ・フォン・アルビオンニア侯爵夫人の次女エルゼを肩車したリュウイチが居間代わりに使っていた
「まあ!エルゼ様!?」
「ロミー~~っ」
何だろうと思っていると、リュキスカが向いていた方から別の女性の声がした。見るとエルゼの
後で聞いた話によるとロミーはエルゼと
だが、エルゼの乳母ともあろうものが度肝を抜かれたままでいられようはずもなく、驚愕の表情のまま両手を震わせ口をパクパクさせて固まっていたのも数秒、すぐに混乱から我に返ると胸の前で十字を切るや否や、両手でスカートの裾をたくし上げ、「はぁぁぁぁ~~~」と悲鳴ともため息ともつかぬ声をあげながら小走りでリュウイチの下へ駆け寄ってきた。背はさほど高いわけでもないし、いつか見た娼婦の
「お、お、お、
リュウイチは本来ならロミーなんかが直接声をかけてよい相手ではないが、さすがに自らが責任をもって預かっているエルゼのこととなると乳母としてなりふり構っていられない。
横に大きな身体を小さく縮こませてプルプルと震えながら、ロミーは潤んだ瞳でリュウイチに慈悲を請い始めた。
『いやぁ、迷惑なんてかけてませんよ。』
「ロミー!これから降臨者様と
「
まあ、エルゼ様!
いやだ、降臨者様になんてことを…ああ、どうか、ああ、いったいどうしたら」
リュウイチの頭上で無邪気にはしゃぐエルゼと対照的にロミーはオロオロと狼狽え続ける。その様子を少し離れたところからネロたちがヤキモキしながらも何もしてやることもできず、ただ気の毒そうに眺めていた。
そこへ丁度、
「
『おっ!?
さあエルゼちゃん、フルーツジュースが来たぞぉ~。
そこのベンチに座って飲もうか?』
「
エルゼが嬉しそうに返事をするのを聞き、リュウイチはエルゼの腰を両手で掴んでヒョイと肩の上から地面に降ろした。その様子をロミーはハラハラと落ち着かない様子で「ああ、エルゼ様」とか「ああ、なんてこと」「主よ」などと小声で繰り返しながら見守る。
エルゼを降ろしたリュウイチはエルゼをベンチに座らせようとしたが、ベンチがまだ今朝の雨で濡れているのに気づくと手のひらで座面の水滴をサッサッと払った。
「ああ!
遅れて気付いたネロが慌ててリュウイチを止めるが、リュウイチは濡れてしまった自分の手を見、それから手についた水気を手を振って払って言った。
『いや、これくらいいいよ。それより道具と材料を持ってきて?』
「は、はい…お、おいっ!」
リュウイチに言われ、ネロは近くにいたロムルスに声をかけると、ロムルスは「わかりました!」と言って
その間、ロミーはエルゼに駆け寄り、その前に跪いて「エルゼ様、大丈夫ですか?本当にロミーは心配したんですよ。」などと心配そうに伺いながら、肩車されていたせいで乱れた着衣をパッパと直していた。
『さあエルゼちゃん、ここへどうぞ。』
「
エルゼがベンチに座ると、ゴルディアヌスがコップを載せたお盆を差し出す。
「はい、
「まあ、ティーフルトゥム!?
「へい、
「まあ、なんてこと…降臨者様、エルゼ様に良くしていただきまして…
なんと申し上げればよいか…」
『いや、いいんですよ。私は別に何もしてませんから…』
ロミーはまるで我が子の悪戯を詫びる母親のように恐縮しきった様子で御礼やお詫びやらを繰り返す。
まあそれも仕方のないことではあっただろう。彼女は自分の仕事に完全に失敗してしまっていたのだから…。乳母である彼女の仕事はもちろんエルゼの身の回りの世話である。食事、洗濯、着替え等々で日常生活での礼儀作法などの教育も行うが、教育を担当する
ところが、暇を持て余したエルゼが
ああ、なんてこと…一番避けなければならないことだったのに…
本当なら激しく叱責されても仕方のないことだったが、幸か不幸か彼女を叱責する立場にあるエルネスティーネは公務のために
だが、このままエルネスティーネに知られることなく穏便に済ますというわけにもいかないだろう。何故なら彼らのいる庭園の周りにはいつの間にかエルゼ捜索に駆り出されていた侯爵家の使用人たちが集まっており、遠巻きにエルゼやロミーたちを見ていたからだ。
それに気づいたリュウイチが彼らに視線を投げかけると、使用人たちは慌てて姿を消していったが、あまり気持ちのいいものではない。
そのうち、
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