第60話 リクハルド軍来襲
統一歴九十九年四月十日、昼 海軍基地城下町/アルトリウシア
リクハルドが《
《
焦るリクハルドが待っていられる間に《酉ノ門》の外に整列できたのは、海賊時代からの最古参の手下だった六十三名と新人ながら急な状況の変化と命令に対応できた十八名だけだった。
「これ以上は待てねぇ、後の奴は怪我人の手当てでもしてろい!」
《酉ノ門》あたりでボヤボヤしてる手下に向かってそう叫ぶと、リクハルドは整列を済ませていた八十一名を引き連れて
銃弾さえ弾き返せそうな分厚く大きな鉄板の当たった
海軍基地の正門前の交差点で指揮を執っていたオクタルが正門正面の海軍基地通り上二百ピルム(約三百七十メートル)先にリクハルドの一団の姿を見止めると、付近にいたゴブリン歩兵に声を振り絞って集合を命じた。
「ドナート、今少し時間を稼いでくれるか?
火が回るまでだ。」
「ご命令とあらば!」
「頼む!」
「オクタル様」
「何だ!?」
「出来れば
「そこにあるだけ持って行け!」
ドナートは部下と共にオクタルの
オクタルはそれを尻目に集まってきたゴブリン兵を連れて海軍基地正門内側に築かれたバリケードの裏側へ回った。
「見ろ、敵だ!!
城下町に火が回るまであいつらを阻止する。
お前たちは弾薬運びだ。弾薬と投擲爆弾を運べ。
お前たちは右の
残りはここから正面に向かって撃て。狙わんでいいぞ。
三人一組で一人ずつ順番に撃つんだ。
よし、弾を込めろ。」
海軍基地の周辺は高さ一ピルム半(約二・八メートル)の石積みの壁で囲われているが、その内側は土が盛られて土塁のようになっている。外側からはハシゴでもかけなければ登れないが、内側からなら歩いて容易に登り降りできた。
こうなっているのは外部からの敵の侵入を防ぐという意味ももちろんある。あとは砲撃によって容易に壁を崩されないようにするためでもあり、同時に基地の敷地内で火災が起こり、貯蔵された火薬に引火して爆発事故を起こしても基地の外側への被害を出さないようにするためでもあった。
正門はその土塁に幅三ピルム(約五メートル半)ほどの開口部を設けて左右に門柱を立てたものである。海軍基地の東側の出入口はここしかなく、他の方面の出入口は
つまり敵は
オクタルの作戦は正門の内側から正門越しに見える範囲の
そのため、正門の左右両脇の土塁の上に六人ずつゴブリン兵を配置し、敵の位置を観測させる。でないと連続射撃を開始したら発砲煙で本隊のいる位置から敵が見えなくなるからだ。
同時に投擲爆弾を十分持たせ、左右の正門内側からは死角になる範囲から接近を試みる敵に対して対処させる。
オクタルは必要な命令を下すと一人の若いホブゴブリンを呼んだ。
「アーディン!」
「ハッ」
呼ばれて駆けつけたホブゴブリンは、まだ鼻の頭に紐を結び付けた子供だった。
ハン族は顔をいかつくするために、子供の間は鼻の頭に結び目が付くように顔に紐を巻く習慣があった。成人に達すると、晴れて人前で紐をとることが許される。
オクタルは若いホブゴブリンに命じた。
「お前は伝令だ。
計画を切り上げ、急ぎ出港準備を整えられよと。
我らはここで
「・・・ハッ!」
アーディンと呼ばれたホブゴブリンはハン族の貴族だったが、父は既にこの世になく、若くして一家の長となったため、成人に達していなかったにもかかわらず一家を代表して参陣していた。無論、今日が初陣である。
若者らしく、伝令と言う名目で前線から下げられる事に不満を抱かないではなかったが、
リクハルドよ、そなたが裏切ったとは未だに信じられんが、こうして対峙してしまった以上は致し方ない。せめて恥ずかしくない戦いぶりをみせてくれようぞ。
基地内へ駆けていくアーディンを見送ったオクタルは不敵にも正面から接近してくる
「構え―!!」
リクハルドは街が静かすぎる事、正面奥の海軍基地正門へオクタルがゴブリン兵を引き連れて戻って行った事、そして海軍基地正門奥に普段は無い筈の
「まいったな、防備を固める前に突っ込んじまいたかったんだが・・・」
いくら
仮にこっちが完全武装したコボルトの軍勢だったとしても、弾幕の中を無傷で突破できるわけじゃない。まして、こっちはコボルトどころかブッカ、ホブゴブリン、ヒトで構成されるアマチュア軍団だ。武装だって正規軍からすれば一段劣る。
本来ならゴブリン兵が町に散らばって暴れているところへ突っ込んで乱戦に持ち込み、そのままハン族が防備を固める前に海軍基地へ
たぶん、あの騎兵どもの生き残りが
じゃなきゃ、あんな風に守りを固めるわけがねぇ。
正攻法が無理なのは既に自明だった。さて、どうしたもんかと
「おう、今、街ん中の様子はどうなってる!?」
「住民たちは既にほとんど逃げてます。
残ってたとしても数人程度でしょう。」
「お
「・・・あちこちにバリケードを築いて通れなくしたり、待ち伏せたりして
「奪った武器の中に投擲爆弾は?」
「何個か残ってます。」
リクハルドの顔がニヤリと歪む。
軍役に就く際には必要に応じて与えられるが、使わなかった分は返さなければならないので、当然郷士たちは誰も投擲爆弾など持ってはいない。
だが、ここで投擲爆弾が手に入るとなれば戦術の幅が大きく広がる。
現在のリクハルドの少ない手勢でもハン支援軍の防御陣地を崩す目途が立つのだ。
「街中探したら他にも転がってるかい?」
「さあ・・・だいたいは回収したと思いますが、探せばあるかも」
いいぞ!とリクハルドは笑った。
数が一つでも増えれば攻略が楽になる。
「お
ほら、俺らはお
「ああ・・・ええ、自分が戦ってた辺りなら。」
「じゃあ
リクハルドはアルビオンニウムに流れ着く前から従えている最古参の手下二人の名を呼んだ。
伝六はコボルトの元脱走奴隷、ラウリはブッカの元海賊でどちらも戦働きでは本業の
「へい!」
「おう!」
「俺らが正面から敵を惹き付けっから、お
ついでに投擲爆弾を探せ。敵陣を潰すのに使うんだ。」
「
「任せてくだせぇ!」
二人は威勢よく返事すると海賊時代からの仲間ばかり二十人ずつ選んで、水兵たちと共に路地裏へと姿を消した。
それを待たずにリクハルドは残った連中に命じた。
「さあて、俺らは正面から攻めるぜ!
両脇に散れ、隠れながら進むんだ!
鉄砲のねえ奴は箱でも
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