子爵父子の動揺
第1363話 緊急の報告
統一歴九十九年五月十二日・午前 ‐
「閣下!!」
要塞司令部の二階、大会議室に隣接する控室から出たところで、アルトリウス・アヴァロニウス・アルトリウシウス子爵公子はリュウイチの
「ネロか、こんなところへどうした!?」
「閣下、
ネロが一気に言うとアルトリウスの顔が強張った。
「下がっていろ」
アルトリウスは一緒に控室から出てきて今もまだ隣にいたルキウスの近習に短くそう伝えると、周囲を見回した。周囲の他の控室はこの後の報告会に出席する貴族たちによって全て塞がれている。となるとネロと二人きりになるためには最寄りでは司令部内にあるアルトリウス自身の
「ネロ、報告の内容は
今、二人はルキウス・アヴァロニウス・アルトリウシウス子爵の控室の前に居る。アルトリウスは養父アルトリウスを控室まで付き添って来たところだったのだ。もしもルキウスにも報告しなければならないなら、ここからアルトリウスの執務室へ行って話を聞いてから再びここへ戻るより、最初からルキウスの前で報告を聞いた方が良いかもしれない。
「ハッ、
ネロの答えにアルトリウスは顔を
「リュウイチ様が?
それは伝言か何か……」
陣営本部で何かが起きたわけでもないのにリュウイチが何かを報告しようとしている……アルトリウスには心当たりがあった。
「まさか
アルトリウスの声にネロは思わず目を見開いて驚き、即座に首を振る。
「違います!
慌てたネロが無意識に語気を強めると、アルトリウスは
「こっちへ来い!」
ネロの返事も待たず、アルトリウスはルキウスの控室へネロを引きずり込んだ。
「!!
なんだアルトリウス、今出て行ったと思ったら?」
驚いたのは室内にいたルキウスだ。これから
「失礼します
驚かせて申し訳ありません。
ネロが大至急、報告したいことがあると申しまして……」
そう言いながらアルトリウスは引っ張り込んだネロを部屋の中央に向けて突き出し、自身は後ろ手に扉を閉める。ネロは突き飛ばされたような勢いでよろけながら部屋の中ほどまで出ると、ルキウスに向かってびしっと姿勢を正した。
「失礼いたします
ルキウスはどこか
「お前はたしか、リュウイチ様の
「ハッ!」
ネロがルキウスの問いに勢いよく答えると、扉を閉め終えたアルトリウスがルキウスの方へ近づきながら補足した。
「ソイツはネロです
リュウイチ様の
アルトリウスはルキウスの左側、ルキウスとアルトリウスとネロで正三角形を作るような位置で立ち止まり、ルキウスはアルトリウスを見上げる。
「内容は、既に聞いておるのか?」
ネロを始めとする
奴隷たちはリュウイチに仕えているリュウイチの奴隷だが、同時にアルトリウスの
しかしアルトリウスはルキウスと共に陣営本部で朝食を摂り、一緒にこの司令部に来ている。そしてこの控室までルキウスを送った後、アルトリウスは控室からつい先ほど出て行ったばかりだ。ネロからの報告を受けてからこの部屋へ戻って来たにしては早すぎる。
アルトリウスはルキウスが怪しんだ通り、ネロの報告の内容を確認していなかった。踏むべき手順をすっ飛ばした……それはアルトリウス自身も充分自覚しているため、後ろめたさを噛み殺すようにルキウスの疑問に答える。
「いえ、未だです。
リュウイチ様御自身が大至急報告するよう指示されたそうですので、
ルキウスは手に持っていた杖を額に当てて目を閉じ、口をへの字にして呆れたように溜息を吐いた。
「
やはり軽率だったか……叱られる予感にアルトリウスが表情を曇らせながら呼びかけると、ルキウスは目を開け額に当てていた杖を降ろした。
「いや、良い。
来てしまったものは仕方あるまい。
報告し
ルキウスはアルトリウスの方を見もせず、ネロに直接発言を許可した。
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