第1085話 心得違い
統一歴九十九年五月十一日、午後 ‐
「いずれにせよ、通常の兵力だけで
まして用意できる戦力がまともでないとなれば、
マルクスは腕を組み、小鼻を膨らませて不満を露わにした。外交官としてはかなり露骨な威圧的態度である。
「
にもかかわらず協力の姿勢に懸念を抱かれるのは、
アルトリウスは強気に反論する。他のアルビオンニア貴族たちは口こそ挟まないが、さすがに互いの強硬な態度がエスカレートしている様子に不安を抱き始めていた。アルビオンニア側貴族たちは日頃から有形無形の支援を受けて続けていた関係上、サウマンディアに対してどうしても引け目に感じている部分が多い。それを理解しているマルクスはあくまでも強気の姿勢を崩さない。力関係というものは、こういう時にこそ利用すべきなのだ。
マルクスは立ち上がり、右手をテーブルに突いて身を乗り出す。
「しかし、現にここで
これはサウマンディアとアルビオンニア、両属州領主家の信頼関係に亀裂を生じさせるものですぞ!?」
語気を強め、念を押すかのようにテーブルをトンッと指で突くマルクスにアルトリウスも表情を消した。睨み合う両者に割って入るようにゴティクスが立ち上がる。
「失礼ながら、
「勘違いとは、どういうことですかな!?」
どうも今日は言葉を
身構えるマルクスにゴティクスは相も変らぬ態度で続ける。
「
マルクスの眉がピクリと動く。
「ですが先ほどからお話を伺いますに、
「そ、それは、確かに
しかし
「それは御心得違いというものです。」
ゴティクスは何てことだと言わんばかりにわざとらしく顔を
「先ほども申しましたように
アルビオンニアの御出身では在らせられますが、その身は既に
グッ……マルクスは何かを噛みしめ、出かかっていたうめき声を飲み込む。
「ましてや
我らはまず
ガンッ!!
ゴティクスを睨んだまま思わずマルクスは拳をテーブルに打ち付けた。が、何も反論できない。ルクレティアを、ルクレティアが持つ《地の精霊》の力を利用して
『勇者団』から捕虜を守ろうとしたのは否定のしようのない事実だったからだ。
たしかにマルクスは『勇者団』に対抗するために《地の精霊》を利用しようとした。だが、それはアルトリウシア軍団とて同じこと。アルトリウシア軍団はルクレティア一行に襲い掛かる『勇者団』と盗賊団を撃退するため、《地の精霊》の力を幾度となく利用している。そのうえでなおサウマンディア軍団の兵力をも利用した。そう、サウマンディア軍団はルクレティアと
「レ、
「
「
マルクスが絞り出すように言ったそれは
「それは
そしてそれは、任務を同じくする《
ゆえに、《
「此度はハーフエルフ様を捕えたではないか!」
しばらく間を置いたマルクスがそう切り出すと、ゴティクスは眉を持ち上げて目を一瞬丸くした。何を言われているのか分からなかったのだ。
「ハーフエルフ様?」
「そうだ!
《
これは何と説明する!?」
ゴティクスは混乱でもしているかのように両手を広げ、周囲を見回してから首を小さく振った。
「それは
「関与してない?」
「ええ、
《
そこに
「シュバルツゼーブルグを火の海にする……
「これは小官個人の推測にすぎませんが……
今回捕えられたハーフエルフ様は、
それに際して
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