第1084話 アルビオンニアとサウマンディアの亀裂
統一歴九十九年五月十一日、午後 ‐
「
「最精鋭だ。」
アルビオンニア側の貴族たちからどよめきが起こる。それらはいずれも第一大隊派遣の報せを歓迎するものだった。第一大隊とはレーマ帝国の軍団ならばその軍団で最強の最精鋭部隊である。戦力としてこれほど頼もしいものは無い。が、たった二人、そうでもない様子でマルクスを見つめたまま肩を落とした。アルトリウスとゴティクスである。
アルビオンニウムからグナエウス砦まで二日……いや、途中の
第一大隊の派遣という報せに対するアルビオンニア側貴族たちの反応に少し気を良くしていたマルクスだったが、ゴティクスはともかくアルトリウスまで浮かない表情をしていることが気になった。
「何か、御懸念でもおありですか、
マルクスの問いかけにアルトリウスとゴティクスは互いに目を見合った。考えていることは同じなのだろう。アルトリウスはマルクスに視線を戻して尋ねる。
「いえ、今からアルビオンニウムの
「もちろんです。
指揮を執っておられるのはアッピウス・ウァレリウス・サウマンディウス閣下です。『勇者団』が
マルクスは胸を張った。プブリウスの弟であり
だがアルトリウスとゴティクスの表情に変化は無かった。今度がゴティクスの方がマルクスに話しかける。
「
「何ですかな?」
「現在、ライムント街道……アルビオンニウムとシュバルツゼーブルグの間にある
「……承知しておりますが?」
「
従いまして、通常ならアルビオンニウムまで二日以内にたどり着けるはずですが、おそらく三日以上はかかるでしょう。
そこから
「……?
まあ、妥当な予想でしょうな。
それがどうかなさいましたか?」
捕虜を護送中のカエソーは今現在グナエウス砦に入っている筈だ。そこにはルクレティアも同行しており、ルクレティアがいる以上 《
マルクスの質問に、今度はアルトリウスが上体を伸びあがらせるように静かに深呼吸してから答えた。
「
アルトリウスの発言の意味を掴みかね、他の貴族たちと同様に最初はキョトンとしていたマルクスはアルトリウスの発言の意味に気づくと急に表情を険しくした。
「まさか!
声高なマルクスにアルトリウスが無言のまま首肯すると、マルクスは「馬鹿な!!」と呻いた。が、目には同情の色を滲ませながらも、アルトリウスの声は冷酷なまでに断ずる。
「御父君であらせられる
既に決定したことだ……そう言わんばかりだ。アルトリウスの言った意味に気づいた貴族たちに徐々に動揺が広がり始める。何も聞いてなかったラーウスなどは何がどうなっているのか分からず、驚きを隠しもせずにアルトリウスとマルクスの顔を交互に見比べているほどだ。
今、グナエウス砦からカエソーらを残してルクレティアだけ先に帰還すれば、カエソーは《
「待ってください閣下!
それでは
「我が
シュバルツゼーブルグにおわす
そうすれば、一個
マルクスは信じられないと言った様子で無言のままフルフルと首を振り、テーブルに手を突いて腰を浮かせた。
「その応援は新兵ばかりで戦力にならない……さきほどそうおっしゃった部隊ではありませんか!?
そんな素人集団では役に立たない!
捕虜をみすみす奪還されてしまいます!!」
マルクスの指摘にアルトリウスが顔をわずかに歪ませると、今度はゴティクスが落ち着いた声で反論する。
「練度が低いのは事実ですが軍事教練は受けています。
野戦は無理でも
「相手は魔法を使うんですよ!?
聞けば一人でも
それが十人は居るんだ!」
「しかし、彼らの盗賊団は既に壊滅しています。」
まるでマルクスの言うこと等相手にしてないかのようなゴティクスの態度にマルクスはついに立ち上がり、両手で机をバンッと叩いた。
「盗賊団など問題にしていません!
感情的になった相手に対するゴティクスの態度はいつもと同じだ。表情を消し、背もたれに背を預けて冷たい視線を向ける。マルクスはそんなゴティクスを睨みつけてギリッと歯ぎしりし、このまま感情的になっては却って不利だと気づくと椅子に腰を下ろした。
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