第127話 被害集計と支援配分
統一歴九十九年四月十四日、昼 - ティトゥス要塞司令部/アルトリウシア
降り立ったのは
彼らが集まったのは
五日目にしてようやく郷士を集めての会議では少々遅い気もしないではないが、各郷士たち・・・特に被害の大きかったアイゼンファウストやアンブースティアは自分たちの領分での対応に追われて会議どころではなかったこともあり、彼らの側から状況が落ち着くまでこうした会議は後回しにするよう要請があったため今日の会合となったのだった。
大会議室の中央には巨大な大理石の長テーブルが置かれている。
会議室最奥に一段高くなっているところがあり、そこに豪華ではあるが玉座と呼ぶにはやや簡素な椅子が二脚ならべられ、エルネスティーネ・フォン・アルビオンニア侯爵夫人とルキウス・アヴァロニウス・アルトリウシウス子爵がそれぞれ座っている。
長テーブルの向かって右手にアルトリウスをはじめとするアルトリウシア軍団の幕僚ならびに大隊長以上の指揮官計十二名と
これら合計二十七名の出席者の他に、出席者それぞれの補佐を務める秘書や家令といった近習が各位のやや後方、テーブルから一歩離れた位置に控えていた。
また、それらとは別に二人の領主の後方にはそれぞれの衛兵隊長が控える。
会議はアルビオンニア侯爵家筆頭家令ルーベルトによる進行で始まった。
まずはルーベルト自身による叛乱事件当日から昨日までの概況報告、アルトリウシア軍団筆頭幕僚ラーウスによる当日のハン支援軍の活動状況分析結果の報告、そしてヘルマンニから当日『バランベル』号が湾内の浅瀬に座礁していたらしいという漁船の目撃情報と、『バランベル』号の物と思われる帆柱等の残骸が翌日帰港した『ナグルファル』号によって発見、回収された事などが報告された。
それらの報告は無論、事実と部分的に異なる。それは降臨の事実と降臨者リュウイチの存在を秘匿するため、あえて調整された情報だった。
その後に各郷士から各地区の被害状況の報告があった。なお、ティトゥス要塞
まだ犠牲者数の集計どころか死体の収容すら完了していないが、昨日の時点で収容された死体の数だけで既に一万を超えており、今後どこまで増えるのか、果たして死者数だけで二万人を超えるのではないか、などと懸念されていた。
会議室が重苦しい空気に満たされる中、補給作戦等を担当する
「
アシナによって示された犠牲者数の推計方法に驚いたリクハルドヘイムの郷士リクハルドが質問すると、アシナは起立したまま見下ろす様にリクハルドを見据えて答える。
「先ほども申しましたように現在
そして事件前の推計人口から導き出した生存者数を差し引いて計算しておりますので、死者数の予測としては・・・まあ、当てにならないと言って良いでしょう。
しかし、生存者数の予測としては十分使える数値です。
今後、復旧復興を進めていく上で踏まえなければならないのは、どれほど死んだかではなく、どれだけ生き残っているかですから。」
残念ながら一昨年アルビオンニウムを襲った火山災害によって大量の難民が流入していたせいもあって、事件前の人口は誰も把握できていなかった。事件前の人口がハッキリしない以上、この方法で正確な犠牲者数を推計する事は不可能である。
しかし、生存者数の予測は立てやすく、それは今後の復旧復興計画を立てる上でのおおよその目安にはなる。アシナが言ったように復旧復興計画は生きている人間の面倒を見ていくためのものであり、死者数の多い少ないは関係ないからだ。それを言いきってしまうところが、いかにも軍人らしいと言えなくもない。
「ハッ、
リクハルドは笑うように言うと、隣に座っていたアイゼンファウストの郷士メルヒオールが不満そうに口を開く。
「だがよぉ、復旧復興のためにはまず死体を片付けなきゃいけねぇんだぜ?
で、その死体の収容も埋葬もまだ終わってねぇんだ。
まったく関係無ぇとばかりは言えねぇぜ。」
「そうだ、我々はまず生存者の世話と死体の収容で手一杯で復旧復興に手を付けたくても手が出ん状況だ。
事件翌日から作業を始めて三日で処理した死体が一万、
だが、実際は死体の収容が進めば進むほど、残った死体を見つけて収容する作業ペースは落ちていくだろう。
てことは、まだ復旧復興作業を始める事はできねぇってことだ。」
メルヒオールに続いてアンブースティアの郷士ティグリスが発言した。
メルヒオールもティグリスも復旧復興作業を始めたいのは山々だったが、いつまでも終わらない死体の捜索と収容作業にうんざりしていた。正直言って無責任な楽観論など彼らは求めていなかったのである。
「おお、そんなに時間が経っちまったらさすがにゾンビ化しちまうなぁ、いくらだいぶ涼しくなってきたからってよぉ?」
何が面白いのかリクハルドが薄笑いを浮かべたまま二人に相槌を打つ。
先の見えない死体収容作業に、少なくとも残り半分切っていることを教えて皆を慰めたかったアシナだったが予想外の展開に困ってしまっていた。表情には出さないが言葉を失ってしまった
「死体の収容作業はもちろん
ラーウスによる紹介を受け、サウマンディア軍団アルトリウシア派遣隊を率いる大隊長バルビヌスが起立する。
「先ほど、
いささか
ラーウスとバルビヌスは互いに一礼すると、ラーウス、バルビヌス、アシナの三名はそろって着席した。
さすがに他所から来た助っ人を前に不満を言う無礼者は居ない・・・という常識を利用した一種の口封じだった。バルビヌスもそれを察していたからこそ、あえて「精兵五百名」と言ったのだが、実際は彼の大隊は一個百人隊を『バランベル』号捜索に派遣しているので実際には四百四十名しか残っていない。
しかし、この口封じが通じない者がいた。
「それなんだが、軍団兵が助っ人で投入されてんのはアイゼンファウストばっかじゃないか!?
ティグリスのこの不満は当然だろう。
アルトリウシア軍団はほぼ全力をアイゼンファウスト地区に投入している。
事件当日、二個
その後でサウマンディアから一個大隊もの応援が来たと思ったら、そいつらも翌日には全員がマニウス要塞へ行ってしまい、しかもアイゼンファウスト地区での活動に投入されるという。
リクハルドヘイムは被害が少なかったし、死体収容も既に終わっているからいいとして、アイゼンファウストばかりに人員が投入されてアンブースティアに投入されないのは、アンブースティアの郷士として納得できるものではない。
「アンブースティアには我々から人員を投入しよう。
ヘルマンニがティグリスを慰めるように言うが、ティグリスは納得しない。
「ありがてぇ話だが、それだって三百
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