第1357話 女奴隷の出自
統一歴九十九年五月十二日・朝 ‐
リュウイチはリュキスカとの間にズレを感じ始めていたが、その理由に思い当っていた。グルギアがリュキスカに忠実な
リュキスカはもしかしたら女奴隷は自分の家族をすでに見つけていると考えているのかもしれないが、実際は家族の誰がどこへ売られていったのかすら分かっていない。だから女奴隷グルギアはまず自分の家族を探し出すことから始めねばならないのだ。そのためには金を稼いでいち早く
『いや、お金の問題じゃないだ。
単にお金の問題だって言うなら……』
「兄さんさぁ、多分騙されてるよ」
リュウイチはリュキスカの誤解を解こうとしたが、言い切る前にリュキスカによって遮られてしまった。
『騙されてる?』
「実は高貴な生まれだったとかいうのはよく聞く話さ。
そんなの真に受けてたら、世の中貴族様だらけになっちまうよ」
リュキスカの声に、表情に浮かんでいたのはまさに冷笑だった。インチキ商人に騙されそうになっているリュウイチを憐れんでいるのだ。
人間の価値というのは、結局どういう影響を
元は高貴な生まれだった……そうした触れ込みもまた同じである。レーマ帝国は貴族社会、身分社会だ。そして身分階級の格差は非常に大きく、
そうした社会において「高貴な生まれ」という触れ込みは人々に大きな期待を持たせてくれる。高貴な生まれ、自分がいつかたどり着きたいと思っている世界から来た住民を傍に置けば、自分の身の回りの生活環境を上の階層の水準に引き上げてくれるのではないか……そういう期待を持たれるのだ。
もちろん実際はそんなことはない。上流階級の人間は自分では何一つしない……そうした生活の雑事はすべて使用人がやってくれるからだ。中には財産の管理・運用や自分のスケジュール管理も全て使用人に任せ、自分はただ遊んでいるという貴族だって珍しくない。むしろ、働かないことこそ、
そんな上流階級出身者が奴隷として、使用人として付いたとして、果たして役に立つだろうか? まず役に立たない。そこには〇〇が不足していて誰かがこうすべきだ……と頭で分かっていたとしても、普段から自分が率先して働く習慣を持たない人間にはそれが自分の役目だとは気づけないのだ。だから当然言われるまで動かない。典型的な「指示待ち人員」にしかなれないのだ。
が、平民たちは上流階級がそういう役立たずの巣窟だとは誰も知らない。だから「実はコイツはどこそこの国の王族でね」なんて愚にもつかない売り文句が飽きることなく繰り返されるのである。
「
少しでも高く売りつけようなんてインチキ商人に
話を信じようとしないリュキスカにリュウイチは困り顔で首を振った。
『いや、そっちは問題ないんだ。
だいたいその奴隷はサウマンディウス伯爵がタダでくれる奴隷で、私たちに売りつけようとしているわけじゃない。
それにその奴隷の身元はルキウスさんたちも確認しているから、そこは疑ってもしょうがない』
「
驚き目を丸くするリュキスカの勢いにリュウイチは驚き、気圧される。
『いや、エルネスティーネさんも同じだよ。
確認しているといっても、身元を証明する証拠をマルクスさんがルキウスさんたちに渡して、これから確認するって流れだけど、伯爵が用意したって言うんだからほぼ間違いないんじゃないかな?
聞いたことあるかな、ヘルミニア……ラ、ラ……ロムルス、何だっけ?』
「ヘルミニア・ラリキアでさぁ、
グルギアの姓名が名前が思い出せず、その場にも居たはずのロムルスに尋ねると、ロムルスは部屋の出入り口で
「ヘルミニウス・ラリキウス!
ちょっとそれホントかい!?」
リュキスカの声は驚きすぎてひっくり返っていた。
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