第419話 勇者団包囲
統一歴九十九年五月五日、夜 -
「ティ、ティフ!どうする!?」
「相手は
正面からの突破は無理だぜ!?」
レーマ軍の
今の大協約体制になる以前、レーマ帝国と啓展宗教諸国連合が世界を二分して戦っていた大戦争時代は無敵の強さを誇っていた。実際、啓展宗教諸国連合は戦術を駆使して側面や背面を
その重装歩兵が大盾を並べて正対している…通常ならば絶望しかない状況であり、『
「ま、魔法だ!
ペイトウィン!!」
「お、おう!?」
ティフが振り返り、低く抑えた声で『勇者団』で一番の魔法の使い手ペイトウィン・ホエールキングに呼びかけると、他のメンバーたちはあからさまに動揺し始める。
「ティフ!不味いよ!」
「ここは退こうぜ!?」
「あっちは正規軍で伯爵が居るんだぞ!?
こっちの正体がバレてるのに、やっちまったら…」
「ブ、ブルーボール様、ここは退くべきです!」
仲間たちが制止するのを無視し、ティフはペイトウィンに命じる。
「
「『石礫』って…重装歩兵のアレは
鉄砲や大砲だって防ぐのに石なんかぶつけたって「大丈夫だ!!」」
ペイトウィンが抗議するのをティフは遮り、言い含める。
「魔導盾は使用者の魔力を奪うんだ!
鉄砲玉や砲弾を防ぐがそれだけ魔力を消費する!
だから石でもたくさんぶつけてやれば、魔力枯渇でブッ倒れちまうんだ!
やつらを石で埋めてしまえ!」
ティフの言った事は事実だった。レーマ軍の
ゆえにレーマ軍の重装歩兵と言えども、正面から打ち破ることは不可能ではない。魔力の消費量は受け止める弾量・・・その質量に比例すると言われており、かならずしも銃砲玉のように高速である必要はない。岩石であっても、大量に浴びせれば魔力枯渇に陥れることは可能だった。
通常、そうした事態を防ぐために
「わ、分かった…やってみる…」
「ダ、ダメですホエールキング様!」
「よせ、ペイトウィン!
ティフも今日は諦めろ!」
ペイトウィンが承諾すると、何人かの仲間が制止するがティフは更に命令を出してその声を抑えた。
「他は防御だ!ペイトウィンを護れ!
エイー!スワッグ!防御魔法だ!!」
「よし、スタフ!メークミー!俺たちの出番だ!前へ出るぞ!!」
ティフに続いてサブリーダーのスモル・ソイボーイが力強く言うと盾を構えて前に出る。それを見てスモルに誘われた二人のヒトが前に出た。一人は武器攻撃系の戦士ルイ・スタフ・ヌーブ、もう一人はスモルと同じ聖騎士のジョージ・メークミー・サンドウィッチ。いずれもチームの盾役である。
『勇者団』が陣形を替え、盾を持った戦士らしき三人が前に出てきたのを見て、カエソー・ウァレリウス・サウマンディウス伯爵公子はわずかに顔を
まさか、本気でやる気なのか?
ティフたちが何を話しているのかはカエソーたちには聞こえていない。しかし、盾を持った人物が前へ出てきて並び、その後ろで何人かが剣を抜いたり弓に矢をつがえるなどしており、どう見ても戦闘準備を整えているようだ。
「足を狙え!
「狙えーっ!足だ!足だぞ!?」
カエソーが号令をかけると、左右の
ガギガチガチッと、夜の静寂を破って撃鉄を起こす音がやたらと大きく鳴り響く。
「聖貴族様!
カエソーが再び英語で呼びかけるが、ティフたちは聞く耳を持たなかった。緊張が高まったせいかラテン語訛りが最初に比べきつくなってしまっていたが、それは関係ないだろう。
ヒトのヒーラーであり支援魔法も使えるフィリップ・エイー・ルメオと、同じくヒトの
「この地に集いし《
重装歩兵の横隊に岩石の雨が降り注ぐ…はずだった。しかし、何も起こらない。
「「「「「「「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」」」」」」」
「ペイトウィン!何をやってる!?」
「あ、あれ!?…ス、ストーンフォール!!ストーン・フォール!!!」
ティフに急かされ、ペイトウィンは繰り返し叫ぶが、相変わらず何も起こらなかった。カエソーは『勇者団』の一人が「ストーン・フォール」と叫ぶのを聞き、どうやら地属性の攻撃魔法を使おうとしたらしいことを理解した。別にカエソーは魔法に関して専門的な知見があったわけではないが、低位の攻撃魔法の中には物語や演劇などによく登場する物もある。ストーン・フォールは地属性攻撃魔法の中ではポピュラーなものであったし、先日 《地の精霊》が彼らを追い払うのに使ったと言う話も聞いていたから、それが何を意味するのか知っていたのだ。
「無駄です、聖貴族様!
この地の《地の精霊》様は我らの味方、ルクレティア・スパルタカシア様に厚き御加護をお与えです。いくら魔力を捧げようとも、ルクレティア・スパルタカシア様に仇成すアナタ方に御力は貸しますまい!」
「な、何だと!?」
「そんなバカな!!」
カエソーが大声で告げると、彼らは愕然となった。
ハーフエルフたちが使う属性魔法は
ペイトウィン・ホエールキングはその点、地・水・火・風とどの属性の精霊とも等しく高い親和性を持つ天才だった。光魔法、闇魔法、神聖魔法、死霊魔法などは原理が違うので使うことが出来なかったが、精霊魔法は魔力不足な場合を除けば使えない魔法など今まで無かったのだ。なのに今、彼の呼びかけに《地の精霊》が全く応じず、地属性の魔法が使えない…彼にとって初めての経験だった。
「繰り返します!
どうか武器をお納めください!
悪いようには致しません!!」
カエソーは粘り強く呼びかけるが、ティフもまたあきらめが悪かった。
「ア、《地の精霊》がダメなら違う属性だ!
そうだ!
『水撃』を浴びせてやれ!!
んっ…なんだ!?」
その時だった。彼らの背後でゴロゴロと何やら重たいものが動くような、低い…地響きを伴った音がしはじめる。前方で盾を構える盾役三人以外の
「な、何だアレは!?」
ゴッ、ゴッゴッ、ゴゴゴゴゴッ、
何者かが崖の下から次々と這い上がって来る。月明かりに照らされ、背景の暗闇に白っぽく浮かび上がるように見えたそれは、シルエットだけを見ればまるで人間のようだった。だが、大きさがまるで違う。そしてその表面も全身が岩石のようだった。
「ゴ、ゴーレム!?」
「ゴーレムだ!ロック・ゴーレムだ!!」
「デカいぞ、十フィートはある!!」
「コッチもだ!コッチにもいる!!」
「ヤバイ!囲まれた!?」
前面にレーマ軍重装歩兵、後背にロック・ゴーレム…そして、さらに彼らの左右の地面から複数のマッド・ゴーレムが姿を現し、彼らは逃げ場を失った。
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