大水晶球
第400話 招かざる客
統一歴九十九年五月五日、午後 -
「何でアイツかこんなところに!?」
イェルナク本人は満面の笑みを浮かべているが、周囲の
しかし、セプティミウスの混乱など関係なく車列は
「
ふぅーーーーっ
「
「
到着は明日かと思っておりましたが…」
「ルクレティア様が
是非、ご挨拶申し上げねばと思い、予定を一日早めさせてもらったのだ。」
セプティミウスの眉がピクリと動いた。カエソーがイェルナクの前で「ルクレティア様が
「そうでしたか。では
「うむ、今はまだ港で荷下ろしをしているところだ。」
「なるほど…もちろん、歓迎しますとも。
出迎えの中で最上位者である
「またお会いできて光栄です、
「こちらこそ、
ところで…」
顔に笑顔を張りつかせ、両手で堅い握手をしながらセプティミウスはマルクスに顔を近づけ、二人は押し殺した声で早口で話しはじえめる。
「何で
「それは本当に申し訳ない。話の流れでこうなってしまったのだ。」
「まさか、
「申し訳ない。知られてしまったのだ。」
「どうしてそんなことに!?」
「話せば長くなる。後で話す。」
「どこまで知られているのです!?」
「ルクレティア様が
「!?」
それではすべて知られてしまっているのではないか…
セプティミウスは嫌な予感が的中し、
「えーっ…オホンッ!
しかし、そろそろ
イェルナクの横槍を受け、マルクスとセプティミウスは無言のまま互いの笑顔を見つめ合い、一拍置いてイェルナクの方へ振り返った。
「これはイェルナク殿、申し訳ない。
「いえいえ、謝罪されるほどではございません。
私の方こそ折角の出会いを邪魔したようで申し訳なく存じあげておりますとも。
さて、
イェルナクの態度はいつにもまして
五月三日の夕刻にサウマンディウムへ派遣される
会見の結果はイェルナクの期待に反して思わしいものではなかった。セーヘイムの船大工では修理できないとされた『バランベル』号については、サウマンディウムから一応船大工を派遣して様子を見させることは了承してもらえたものの、その他はイェルナクにとっては不可解なほど手応えが無く、
プブリウスからすれば部下やエルネスティーネらアルビオンニア貴族から既に報告を受けていたことをそのままイェルナクの口から聞かされているだけだったので、当然と言えば当然の反応であっただろうが、サウマンディアとアルビオンニアがそこまで堅い結束で結ばれているとは思っても見なかったイェルナクにとっては理解に苦しむ反応であった。
プブリウスに
だが成果らしい成果もあげられず、失意のどん底に突き落とされたイェルナクに、しかし思わぬ福音が
外交儀礼上仕方なく招待された
アルビオンニウムで降臨があった。アルトリウスがその日のうちにプブリウスに報告に来た。降臨者は今、アルトリウシアに匿われているが、それはプブリウスも承知の上であり、サウマンディアから正式な使者を送って既に挨拶も済ませた。レーマ本国へもムセイオンにも報告済みで、謀反だの陰謀だのはない。ただ、市民が混乱することを避けるため、降臨があったことは秘匿している。だからイェルナクにも今まで言ってなかった。今日受けた報せによれば、ルクレティア・スパルタカシアに御手が付いて
その事実はイェルナクが唱えてきたアルビオンニア侯謀反の陰謀説を根底から否定するものではあったが、だが同時に
イェルナクはそこからプブリウスに
隠し事をしていた…その事実は多少なりとも後ろめたさにつながる。イェルナクはそこを突いたのだ。身分も立場も弱い蛮族ではあったが、過酷な状況に陥りながら真実を知ることができず、それゆえに必要以上に困難を被っている。そのように不誠実を責められては、酒に酔って理性が多少衰えていたこともあってプブリウスも強く出きれない。
俺はお前たちが隠していた真実を知ったぞ!
それはイェルナクに自信を取り戻させた。そして実際にこうしてプブリウスの説得に成功し、アルビオンニウムへの上陸を果たしたことで、その自信は一層強まっていた。
イェルナクはチャンスを掴もうとしていた。
現地へ、アルビオンニウムへ行ってしまえば、メルクリウス団の陰謀を裏付ける証拠を
そのような思惑など周囲の者たちは知る由も無かったが、イェルナクが面倒を引き起こそうとしていることだけは予想がついていた。セプティミウスは右の口角を吊り上げて何とか笑顔を作り上げると挨拶を返す。
「私もこのようなところでイェルナク殿と
ところで、
「ええ、伯爵から伺いましたとも、大変な慶事ですな。
アルトリウシアの御発展は確実、祝着至極に存じ上げます。」
「お気持ちは嬉しいがイェルナク殿。
伯爵からお話を伺ったのなら、それが今どのように扱われているかもご存じのはず。どうか秘匿の維持にはご協力いただきたいものですな。」
「おう!これは失礼。
もちろん、我ら
ただ、ここにはご存じの方しかおられないと思ったものですから、少々油断してしまいました。どうかお許しを。」
「なに、気を付けていただければ良いのですよ。」
セプティミウスはぎこちなく笑った。
これからここは戦場になる公算が高い。狙われているのはヴァナディーズ、そして攻撃してくるのは三百人の盗賊を従えた『
『
セプティミウスは頭が重くなるのを禁じ得なかった。
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