第267話 お昼の会食
統一歴九十九年四月二十二日、昼 - マニウス要塞司令部/アルトリウシア
侯爵家家族とその家臣団がカールの
昼食会と言っても元々レーマ帝国では一日二食が基本であり、
ピザは降臨者によって
実際、当時のピザは安価でカロリーは高いが、見栄えも味もまったく洗練されていなかった。生地は全粒粉を使い発酵させずに薄く延ばして焼くため、パンというよりはビスケットやクラッカーに近いものであり、トッピングの油脂等がしみ込むことで柔らかく食べられるようになるという物だった。トッピングに使うのは植物油、獣脂、チーズ、トマト、エングラウリダエなどの小魚(《レアル》のカタクチイワシに似た魚)など、
その地位が変化するのは
まず生地が全粒粉からフスマを取り除いた白い小麦粉が使われるようになった。そしてそれを良く
この日、各人の前に出されていた直径十インチ(約二十五センチ)のピザもそうした歴史を経て生み出された物だった。リュウイチからすると《レアル》で馴染みのあるピザにかなり近い。それでいて、《レアル》日本特有のインチキチーズではなく、新鮮なナチュラルチーズが用いられている分、味はむしろリュウイチの知っているピザよりよほど美味であった。
リュウイチもまた
この
レーマ帝国の住民でもキリスト者や
「いやはや、見事な
『そうですね…私の国ではそうです。いや、今はほとんどの国がそうじゃないかな?貧困な国でなければ一日三食摂るのが普通になってるんじゃないかと思います。
ああ、私の国でも昔は一日二食だったり時代もあったようですが』
二枚目のピザの二切れ目をコーヒーで流し込むように飲みこんでリュウイチが答えた。口に何か入れたまましゃべる事を無意識に避ける癖が出たものだったが、レーマ貴族からすればこれも奇妙に見える。食事中に音は立てないという価値観は、近代以降の降臨者らによって齎されてはいるがレーマ帝国ではそれほど厳密には考えられていない。
それよりも食事にコーヒーやお茶を一緒に飲んでいる点に違和感を禁じえない。コーヒーやお茶はもちろん降臨者によって齎されて
「さすが、《レアル》とは随分と豊かな世界なのでしょうなぁ。
『聞けばこの世界では《レアル》には存在しない
「そうなのです。我々としては大変不可解なのです。
降臨者の皆様はいずれも
《
ところが降臨者たちは口をそろえて《レアル》には
「やはり、
ふっふっふと、
「
「我々のようなゴブリン系種族なども《レアル》では実在はしないものらしい。ドラゴン、エルフ、獣人たち・・・
ルキウスが
「しかし、実在しない存在であるにもかかわらず、概念上には存在しているというではありませんか…これまた随分と奇妙な話です。」
『私としては概念上にしか存在しないはずの存在が実在しているこの世界のありように驚いています。』
「「「「はっはっはっは」」」」
「もしかしたら昔は
「降臨者は
もしかしたら、歴史が記されるようになる前の時代の降臨者は《レアル》に帰ることができたのかもしれません。」
『その人たちがこの世界で見た物を《レアル》に伝えたというわけですか?』
やや驚いたようにリュウイチが質問すると、マルクスとルキウスは互いの顔を見合って眉を持ち上げ両手を広が手見せた。冗談はこの辺にしておこうという合図だ。種族間問題、民族問題、種の起源…そういった問題にまつわる冗談に不用意に悪乗りすると、リュウイチに要らぬ先入観を持たれてしまうかもしれない。冗談というものは、十分な知見を持ったもの同士で楽しむべきものだ。リュウイチは降臨者でおそらく
ましてや、リュウイチは《レアル》に帰りたいのに帰れなくなってしまっている
「まあ、そういう説はありますが、恐らくそうではありますまい。」
「我々の祖先は種族というものを意識していなかった。ゴブリン、ホブゴブリン、ブッカ、コボルト、ドワーフ、オーク、エルフ・・・そういった種族名を付けたのは
『そうなんですか?』
「
生物としての種の違いなどという概念がそもそも無かったのです。」
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