第268話 サウマンディアへの招待
統一歴九十九年四月二十二日、午後 - マニウス要塞司令部/アルトリウシア
面白いのは先ほどのピザは大いに食べたリュウイチはやや食傷気味で、逆にピザにあまり食指を伸ばさなかったレーマ貴族たちが
『しかし、種族を示す名前が無かったというのは少し不思議な気はしますね。』
「昔は地域を超えた交流というものが乏しかったですからな。同じ種族でも話す言葉や習慣が違うのであれば一緒に扱うことは現実的ではありません。」
マルクスはキャラメル・フルーツを口に運びながら答えた。
『今は必要になった?』
「どうでしょうね?今も絶対必要だとまでは思いませんが…まあ、軍制上あった方が便利かなというところでしょうか?」
「
マルクスの答えをアルトリウスが補足した。リュウイチはテーブルマナーなどをさほど気にする方ではないので特に何とも思っているわけではないが、やっぱりアルトリウスもやっぱりキャラメル・フルーツを口でもぐもぐしながらしゃべっている。
『ああ、同じ種族で固まってた方が装備を統一できたりして補給が便利ってことですか?』
リュウイチは気にしてなかったが、ルキウスは少し気にしていた。近代以降の降臨者、特に
マルクスが再び口に物を入れたまましゃべろうとするタイミングで、ルキウスはわざと咳払いをしてマルクスを睨んで制止すると、一度香茶をゴクンとわざと喉を鳴らして飲んでから何事も無かったかのように話し始めた。
「というより、元々
その結果、自然と種族ごとの部隊編成になってたのですが、大戦争で人が地域を越えて移動するようになり、おまけに大戦争を通じてあらゆる
そうするとヒトとホブゴブリンみたいに比較的近い種族は良いのですが、ドワーフやゴブリンのように小柄な種族と、オークやオーガのような大柄な種族では体格が違い過ぎて戦列を組めません。部隊運用に色々と支障がでるようになって、まあ…いつの間にか
ゴブリンやドワーフは平均身長が四ぺス(約百二十センチ)ほどだが、オークは平均身長五ぺス半(約百六十八センチ)、オーガは六ぺス半(約二メートル)といったところだ。
レーマ軍は
『そのゲーマーが付けた種族名がゴブリンとかオークとかだったんですか?』
「そのようですな。そう呼び始めたのは啓展宗教諸国連合側に降臨した
最初、ルキウスが何を言いたいのか理解できなかったマルクスだったが、ルキウスが香茶の入った
慌てるように自分の
「啓展宗教諸国連合はレーマ帝国と対決するために啓展の民が協力関係を結んだものですが、その実態は種族同士民族同士の衝突が絶えない群雄割拠の世界です。
彼らは自分たちの敵味方を区別するため、様々な定義で人々を区分していったのでしょう。同じ区分に属する者同士で手を組み、異なる区分に属する者同士で敵対する…ただ、その敵味方を分ける区分の在り方が種族であったり、宗教であったり、話す言語であったり、出身地域であったりと複雑に入り乱れていて、その関係は実に複雑です。
ただ、我らレーマ帝国に対する時だけは、同じ啓展の民として手を組むようですが…レーマ帝国との間に大協約が結ばれてからは再び群雄割拠の状態に戻っていったようですな。
今ではまた小国に分かれて互いに相争っているようです。」
『啓展の民?』
「キリスト教、ユダヤ教、イスラム教という宗教を信じる者たちを総称して『啓展の民』と呼んでおります。」
マルクスがそう説明するとルキウスがおどけて補足する。
「そして彼らからすると我らのレーマ帝国は魔界であり、
「「「はっはっはっは」」」
ルキウスの発言を受けて貴族たちが一斉に笑った。リュウイチも冗談かと思い、つられ笑いをする。
『レーマ帝国は平和なのですか?』
貴族たちはギクリとする。遠い啓展宗教諸国連合の話は彼らにとっても他所の世界の話であり、普段から他人事のように話していたのでつい調子に乗ってしまったが、リュウイチの関心が戦争に向きかけていると気づいたからだ。
リュウイチの関心を戦争から離さねばならない…だが、嘘をつくわけにも行かない。バレた時が怖いからだ。
「レーマ帝国は元々小さな国々の同盟関係が恒久化して成立したため、多くの種族や民族が早い段階から対等な関係を築いていました。
ですので、帝国内での戦はほとんどありませんな。
外敵との戦いはありますが、それもここのところは小規模な物ばかりです。」
マルクスはそう答えると視線でアルトリウスに話を振った。
「
それも、ここから山を越えて六日は歩かねばならない遠方での話です。」
「
アルトリウスは安全であることを強調して説明したが、話が戦争に向いてきたことに危機感を抱いたルキウスがすかさず口を挟んだ。
「ええ、母はコボルトで、妻は私と同じハーフ・コボルトです。」
ルキウスの意図に気づいたアルトリウスはニッコリと笑って
万が一、リュウイチの関心が南蛮との戦争に向き、《
『では、そのハン族の叛乱というのは大事件だったのでしょうね。』
リュウイチの関心が対南蛮戦争から離れたと思ったら
「え、ええ…ですがご安心ください。彼らはここから水平線上に浮かぶエッケ島という小島に閉じこもってしまいました。彼らは島から出ることは出来ず、もはやアルトリウシアへ戻ってくることはもちろん、どこへも行く事が出ません。」
アルトリウスが説明するとマルクスがすかさず補足する。
「そうです。我々も
ハン族が再び戦を起こす可能性は万に一つもなくなりましょう。」
『そうですか…それは安心ですね。』
その一言に貴族たちは一斉に胸を撫で下ろした。そして全員が安堵したところでマルクスは一口だけ香茶を飲むと
「もし、リュウイチ様が御同意いただけるのでしたら、こちらよりもより安全な…我らがサウマンディウムへ御招待申し上げます。我が主ウァレリウス・サウマンディウス伯爵はいつでもリュウイチ様を歓迎できるよう準備を整えておりますれば。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます