第1320話 聖遺物の所有権
統一歴九十九年五月十一日、夜 ‐
大協約はヴァーチャリア人類が
そしてリウィウスたちの主人はリュウイチ・・・すなわち降臨者本人であり、大協約は降臨者本人の権利について何らかの制限を及ぼすようなものではない。よって、リュウイチの奴隷であるリウィウスが聖遺物を所持するのは、リュウイチ本人が聖遺物を所持しているのと同じことなのだから、大協約には抵触しない。
たしかにその通りなのかもしれないが、
「グルグリウス殿がおっしゃりたいことは分かります。
だが、
ですが、
それが強力な
何せリュウイチ様は非常に強力な降臨者で、非常に多くの
カエソーの説明にグルグリウスは「なるほど、理解しました」と短く答えると、室内には微妙な空気が流れた。
五人の軍人たちはグルグリウスがリウィウスに魔導具を与えることで、ただでさえ今現在の厄介な状況がより複雑化するのを避けられそうなことに安堵したし、リウィウスは自分があの面倒くさそうなハーフエルフの世話をさせられずに済みそうなことに安堵していた。が、同時にそれはティフのアルトリウシア行きを阻止する方法が再び消滅してしまったことも意味していからだ。
さて、また話が振出しに戻ったぞ……
五人の軍人たちが頭の中をリセットしようとしたところで、グルグリウスが再び口を開いた。
「リウィウス殿がミスリルを身に着けている理由は理解しましたが、しかし……
だからといって
六人の視線が改めてグルグリウスに集まる。その誰もが少し疲れたような顔をしていた。いい加減にしてくれ……そう言いたそうな表情だ。
「大協約が所有を禁じている
つまり《レアル》から持ち込まれたか、ゲーマーがスキルで創った物……
ならば
一同はポカンと間の抜けた顔を見せる。話の理解が追い付いていないようだ。
たしかに大協約は降臨者の、特に
グルグリウスも降臨者などではなく、ヴァーチャリア世界で生まれたインプがグレーター・ガーゴイルへ進化した存在なのだから、そのグルグリウスがこの世界で創った物も当然大協約の規制の対象に等なるはずがない。
「何なら、既に身に着けておられる物に魔法を付与しても良いでしょう。
ミスリルなら魔法との相性も良いから、付与にも都合が良い」
反応の鈍い人間たちにグルグリウスが続けて言うと、六人の人間たち全員が腰を浮かせて慌てた。
「いや! いやいや!」
「それは流石に!!」
グルグリウスとしては妥協してハードルの低い提案をしてみせたつもりだったが、予想外の軍人たちの反応に逆に面食らってしまう。
「何です!?
既に身に着けているものなんですから問題ないでしょう?」
リウィウスの
カエソーたちも反射的に反対したわけだが、冷静に考えると確かにその通りだ。しかし本当にそうなのだろうか? 咄嗟に反対してしまったなら、おそらく無意識にとはいえ相応の理由があるからこそ反対したはず……カエソーは答えをすぐには出せなかったが、目を閉じ眉間を揉みながら頭の中を必死に整理しはじめた。そして数秒後、目を開けてまだ口を挟まないでくれと頼むように周りに広げた両手を翳して見せる。
「まず、グルグリウス殿が言われたように、リウィウス殿の装備はグレーな状態です。
我々はひとまず、合法か違法かの判断を保留することで、黙認している状態です……それが一つ!」
慎重に語り始めたカエソーにリウィウスは一人、なんだか今更騙されたような気になって渋面を作り、不審の目を向ける。しかしカエソーは何も見ていない。自分が間違ったことを言わないか、慎重に言葉を選ぶ人間特有の態度で誰にも視線を向けることなく話を続けた。
「次にリウィウス殿は
レーマ帝国では奴隷にも財産権がある。給料は支払われねばならないし、それによって奴隷は自分の身分を買い戻す可能性が担保されなければならない。だが、奴隷に仕事をさせるために与える道具は
リウィウスの装備は
カエソーは誰にも合わせていなかった視線をグルグリウスへ向けた。
「つまりリウィウス殿の武具はリュウイチ様の所有物です。
持ち主であるリュウイチ様が居られない今、その武具に勝手に魔法効果を付与することなど認められません」
グルグリウスは口を真一文字にして鼻から大きく息を吸い込んだ。
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