第901話 グレーター・ガーゴイル
統一歴九十九年五月九日、夜 ‐
「ド、
「大丈夫……です。
……これは、《
喉の奥に何かがつっかえたような声でリウィウスが背後のルクレティアに呼びかけた。これは何かと問いたいのか、それとも逃げ隠れするよう
リュウイチが
「
どういうことですか!?
話が違うぞ!
インプに力を与えて眷属にするだけじゃなかったのか!?
コイツはどう見ても
珍しくアロイスが取り乱した。その両隣のカエソーとスカエウァはアロイスを制止すべきであったろうが、それぞれ唖然としたままさっきまでインプだったソイツを見上げていて、アロイスが騒ぎ始めたことにすら気づいていない様子だ。壁際で
「お、落ち着いてくださいキュッテル閣下!
これは
男たちが対応しないので仕方なくルクレティアがアロイスに応える。もっとも、ルクレティアが男たちよりしっかりしていたからというわけではなく、ただ単に《地の精霊》からの念話を受けてのことだったが。
「
いや、
私は本で見たぞ!?
コイツはどう見ても
ルクレティアが答えたのでアロイスはルクレティアに訴えながら詰め寄ろうとする。が、その時隣にいたカエソーとぶつかってしまい、アロイスの興奮にようやく気付いたカエソーはアロイスに抱き着くように捕まえた。
「閣下!いけませんん!!
ここは落ち着いて!」
カエソーがアロイスを捕まえるのと同時に、カルスがサッとルクレティアとアロイスの間に入り込んで身構えた。男二人に守られる形にはなったが、それでも背の高いアロイスから怒りの形相を向けられたルクレティアは思わずたじろいでしまう。
それを見て、さきほどまでインプだったソイツが、縮こませていた身を更に屈めて人間たちの様子を覗き込んだ。
「おおおっ!?」
「コイツ!」
スカエウァが唸りとも悲鳴ともつかぬ声を漏らしながら後ずさりし、
その気配に気づいて改めてソイツを見上げたアロイスは巨大な悪魔に
「ア、《
声を無くした男たちの耳にルクレティアの声が突き刺さる。
「コレは悪魔ではありません。妖精です。
インプが地属性の魔力を得て進化した上位種の、ガーゴイル。
グレーター・ガーゴイルです。」
胸を張り、凛とした態度で声を張ったルクレティアのそれは虚勢だった。《地の精霊》様の御言葉を伝える
「グ、グレータ……ガーゴイル……
噛みしめるようにアロイスがつぶやいた。
その名に聞き覚えのある者はいなかった。「ガーゴイル」はもちろん聞いたことがある。建物の装飾の一種で、悪魔を
「ブルグトアドルフの、《
与えた力はだいぶ抑えられたそうです。」
「こ、これでか!?」
今度はカエソーが驚き、ルクレティアを見た。一昨日見た《森の精霊》は巨大な《
いや……あの《
頭が混乱して来る。とても信じられはしない……が、疑ったところでその是非を確認する手段も無い彼らはひとまず話を信じ、受け入れるしかなかった。
ハ…ハハッ……と、誰からともなく乾いた笑いが漏れ始める。
「いや……ああ、そうですか……グレーター・ガーゴイル……
いや驚きました。何せ、初めて見た物ですから……ねぇ閣下?」
「えっ!?……あ、あぁ……はい……」
取り乱してしまったことを恥じ、それを誤魔化すかのようにカエソーが半分笑いながら言うと、ガーゴイルに睨まれて委縮していたアロイスは取りなしてもらえたと思い、戸惑いながらも同意する。それを皮切りに室内の人間たちの緊張が徐々にではあるがほぐれ始めた。
「素晴らしい!
いかにも強そうだ。」
「え、ええ……これなら
余裕と冷静を取り戻すべく、男たちはまるで手の平を返したかのようにグレーター・ガーゴイルを称え始めた。壁際に立っていた兵士たちも、引きつった笑いを浮かべながら、隣り合って立つ戦友たちと顔を見合わせ取り繕う。
先ほどまでの緊張の反動からか、過度に空気が
「で、ですが、この巨体で、どうやってここから出るのです?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます