第1194話 グルグリウスの答え
統一歴九十九年五月十日、夜 ‐
「もちろん報酬はお支払いいたします。
今、手元にはありませんが金貨でいかがですか?
ダメでしたら宝石でも……」
カエソーの申し出にルクレティアもスカエウァも、そしてリウィウス達も共に目を丸くしていたが、一番同様していたのはスカエウァだった。目のみならず口まで丸く開け、カエソーが自分の手から実際に指輪を外し始めるとまるで顔面神経痛にでもなったかのように顔のそこかしこをピクピクと
ムセイオン聖貴族の世話をするのは自分だ……そのこの場で自分しか成しえないはずの仕事を自分以外に割り振られようとしていることに、これまでに経験のない焦りを感じているのだろう。しかし、さすがに
「お待ちください
戸惑うグルグリウスが確認を求めたそれはグルグリウスがグレーター・ガーゴイルにしてもらう前、ペイトウィンを捕まえた後のグルグリウスの使い道について《
それを聞いてスカエウァは冷静さを取り戻し、ポカンと開けていた口を真一文字に結んで
「おお!
そこまでお考えくださってありがとうございます。
ですが、その心配は必要ないでしょう。」
「何故です?
もしかしたら
あの肌の黒い隊長の率いる軍団ではおそらく苦戦するでしょう。」
グルグリウスは
それを抜きにしたとしてもアロイスは自分の部下たちを低く評価していた。新兵ばかりの編成で本格的な戦闘には耐えられない……自身の部下に対するその評価はおそらく正しいだろう。その話が真ならば、『勇者団』が本格的にシュバルツゼーブルグを襲えばアロイスは街を守り切れないに違いない。
だがカエソーはグルグリウスのその懸念を軽く否定した。
「確かに、
ですが、その心配はないでしょう。」
「ほう、何故ですかな?」
「さきほど、グルグリウス殿も
グルグリウスはスッと仰け反るように背を伸ばし、顎髭をさすった。
「確かにおっしゃられてましたな。
しかし、それを信じるのですか?」
「もちろん。」
カエソーはにっこりと笑ってそう言うと、笑みがわずかに残ってはいるものの真面目くさったような顔つきになって続けた。
「シュバルツゼーブルグを襲うというのは
あの手紙は
そしてその
シュバルツゼーブルグを襲うという考えは残された
いやその必要性自体が無いでしょう。」
「
グルグリウスの疑問をカエソーは首を振って否定する。
「
シュバルツゼーブルグを襲ったからと言って彼らが解放されるわもありません。
それをするなら先に脅迫して来るでしょう。
シュバルツゼーブルグを襲われたくなければ捕虜を解放しろとか何とか……」
「襲ってから脅迫して来るのではないですか?
他の街をシュバルツゼーブルグのようにしたくなければ捕虜を解放しろとか?」
カエソーは痛いところを突かれたとでも言うように目を丸くし、口を真一文字に結んで視線を一度逸らせた。それからプルプルっと首を小刻みに振ると視線をグルグリウスに戻す。
「だとしてもそれはもっと後でしょう。
「ふむ、今頃
「あるいはまだ知らないかも……
いずれにせよ一度ブルグトアドルフへ向かうでしょう。」
グルグリウスは目元をピクリと動かし、神妙な顔つきになった。
「……エイー・ルメオ様ですか?」
「ええ、
あるいは、
『勇者団』がブルグトアドルフへ向かいエイーと合流することは最初から予想で来ていた事だ。だがそれは同時にグルグリウスが心配していることでもある。
エイーはグルグリウスにとっての義姉、ブルグトアドルフの《
『勇者団』がエイーの許へ向かったということは、そのどこか信じきれないクレーエを頼らねばならないということでもある。期待が裏切られればクレーエごときを探し出して八つ裂きにするくらいは訳は無いが、問題はそのクレーエも《森の精霊》にとって大事な友人であるということだ。《森の精霊》のような純真無垢な心の持ち主が、あのような人間に付き合って良いことなんか何一つあるわけがない。義弟としてはクレーエのような人間に入れ込んで欲しくは無いが、既に入れ込んでしまっている以上グルグリウスにはどうしようもなかった。エイーとクレーエを守りたいという義姉が却って悲しい思いをしなければよいが……グルグリウスの不安は尽きない。
「いずれにせよ彼らは一度ブルグトアドルフへ向かった後にこちらへ来るはず……だとすればシュバルツゼーブルグへ戻って来るのは早くても明日。
その前に
グルグリウスは顎に手を当てると沈思黙考するかのように目を閉じた。
『《
まずは主人の許しを得ねばなるまい。グルグリウスにシュバルツゼーブルグを守らせるというのは、他ならぬ《地の精霊》のアイディアなのだ。それを独断で
グルグリウスの念話での問いかけに対し、《地の精霊》はそっけなかった。
『ワシには人の
好きにするがよい。』
《地の精霊》の感情は平坦そのもので不満のようなものは感じられない。それはグルグリウスにとって
『よろしいのですか?』
『ワシが偉大なる御方から
他のことはどうでもよい。』
《地の精霊》はルクレティアの要望は叶えるようにしていたようにグルグリウスは認識している。そしてルクレティアはシュバルツゼーブルグの街が襲われ被害が出ることを心配していた。《地の精霊》がシュバルツゼーブルグの街そのものに興味がないのは理解できるが、立場を考えれば守った方が良いように思える。それを考えるとグルグリウスには《地の精霊》の言い様は少し腑に落ちかねた。
『ではシュバルツゼーブルグの街は守らずとも?』
『
そもそも、ワシらは人目に着くようなことは避けねばならぬ。目立つわけにはいくまい。
それらを理解したうえでならば、あとは其方の思うようにせよ。』
要は目立たないようにしろということなのだろう……グルグリウスはそのように理解した。いずれにせよ、シュバルツゼーブルグ防衛の優先度は考えていたより高くはないらしい。
グルグリウスは結論を出すと顎に当てていた手を降ろし、目の前でグルグリウスを見上げているカエソーに向き直った。
「いいでしょう
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます