第1424話 問題の本質
統一歴九十九年五月十二日・午後 ‐
なるほど、どうやらオトはオトなりに大協約の規制を逃れる方法を考えたうえでゴルディアヌスに協力していたようだ。
確かに、その時点でゴルディアヌスは《
『……それで、《
『結果を言えばその通りです、主様。
私はオトからこの仕事が主様とどう関係するのかを聞かされ、その後にゴルディアヌスを紹介され、ゴルディアヌスから相談を受けました』
リュウイチの尋問が《風の精霊》に向けられたことで、ゴルディアヌスとオトは密かに息をついた。まだ終わったわけではないので安心できるわけではないが、しかし仮に同じ戦場に居るとしても自分に銃口が向けられている時と向けられていない時では緊張の度合いは変わるものだ。リュウイチの尋問が再び自分に及ぶまでは、少し緊張をほぐしていられる。
『相談の内容は?』
『ゴルディアヌスの説明にあった通りです。
かつて礼拝が行われた部屋で毒煙を吸って怖い思いをした貴族の幼子がその時の事を思い出して怖がっているので、再び同じことが起きないように部屋の中を見張り、何かあればすぐに助けに入れるようにしたいと。
ただし、部屋の中には魔力に優れた神官がいるので魔法は使えないし私も他の精霊も近づいてはならない。ゴルディアヌス自身も入ることは出来ないと。
どうしたらいいか教えてほしいとのことでした』
リュウイチは溜息と共に尋ねた。
『それで、お前はトルキラを貸したのか?』
『我ながら最善であったと自負しております』
憂鬱そうなリュウイチの様子に反して《風の精霊》の答えには全く淀みがなく、むしろ誇らしげですらあった。リュウイチは思わず両手で顔を覆い、そのまま目の周りをマッサージしながら深い溜息をついた。
果たしてどうしたもんだろうか?
全員が良かれと思って行動している。そして誰も被害を被っていない。おそらくここにいる者を除く誰にも気付かれていないだろう。つまり、事件も事故も起きてはいないのだ。ただ、事件や事故につながりかねないことではあった。
トルキラは《風の精霊》の眷属……《
けど、それで本当にいいのか?
リュウイチは顔を覆う手をそのままに俯いた。自然と指先が目の周りから額へと移り、今度は額を揉み始める。
法的に問題があるかないか……本当の問題はそこじゃない気がする。
そうだよ、《
リュウイチは手を降ろし顔を上げるとあてもなく天井を見回した。リュウイチは思考が堂々巡りをしたあげく、その思考は既に一度通り過ぎた地点へ戻り、そしてそこから堂々巡りへ至ったルートを忘れてしまった。リュウイチ自身は責任は問われなくても、その恩恵を受けた貴族(この場合はエルネスティーネ)がリュウイチを
う~ん……じゃあ何が悪いんだ?
バレなきゃそれでいいどころか、バレたところで問題にならないんじゃ……
いや、そもそもそれは正しいのか?
不安そうにリュウイチを見つめる一同の視線に気づけないまま、リュウイチは思考を巡らせ続ける。
何か引っかかるな……
きっと問題の本質は法的にどうかじゃないんだ。
じゃあ、何が問題なんだ?
あてもなく
……うん、そうか……
ひょっとして私は、自分が仲間外れにされているのが気に入らないのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます