第1130話 捕まったグルギア
統一歴九十九年五月十一日、夕 ‐
あ……!?
黒く重々しい扉はグルギアがほんの
「ぅお!?」
二人の内、体格の良いホブゴブリンがグルギアを見て驚き、一歩後ずさる。体格がいいとはいっても、身長は明らかにグルギアの方が高い。レーマ人女性としては珍しいくらい長身のグルギアはホブゴブリンの声に驚いて息を飲み、胸に手を当てて仰け反った。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
目が合ったまま互いに固まる二人……グルギアの前で固まるホブゴブリンの背後から、もう一人のホブゴブリンが声をかける。
「何だよアニキ、何かあるのかぁ?」
どこか間の抜けたような調子のその声に、手前のホブゴブリンは我に返った。
「おっ!?
おう、扉開けたらコイツがよぉ……」
ホブゴブリンはそう言いながら半分開いていた扉を押し開き、身体を避けて背後に隠れていたもう一人にグルギアの姿が見えるようにする。背後にいたホブゴブリンは手に持っていた
突然火を突き付けられる形になったグルギアは小さく悲鳴をあげながら思わず身をよじって松明を避ける。それに気づいた手前のホブゴブリンは扉から手を放し、相棒が突き出した松明を跳ね上げた。
「おう、危ねぇじゃねぇかアウィトゥス、気ぃ付けろ!」
「あっ、悪ぃ、人がいるなんて思わなかったもんで・・・」
「悪かったなアンタ、大丈夫かい?」
二人のホブゴブリン……ゴルディアヌスとアウィトゥスは改めてグルギアの顔を覗き込むように見上げた。恐る恐るローブのフード越しにホブゴブリンたちを見返す。ひょっとして昼間、
相手の顔を見るというとは向こうからも見られるということだ。ホブゴブリンたちもフードで作られた影のせいで見えにくいものの、グルギアの顔に見覚えが無いことに気づくと急に表情を険しくし始める。
「あぁ?
アンタ、見たことない顔だなぁ……」
「顔もだけど、ランツクネヒト族でもねぇのにこんな背の高ぇ女なんていたっけ?」
グルギアくらい背の高いヒトの女はいないことはない。レーマ人女性としては長身だが、アウィトゥスが言ったようにランツクネヒト族は総じてレーマ人よりも長身であり、エルネスティーネとグルギアはだいたい同じくらいの身長だ。カールの世話を焼くためにこの
まずい……
グルギアは疑念を抱き始めたホブゴブリンたちに視線に耐えかね、目を泳がせ始めた。それが余計にゴルディアヌスたちの疑念を深めていく。
「おい、アンタぁ一体
ここは
以前から
「す、すみません。
私、知らなくって……」
「女! 被り物とって顔を見せろ!」
ゴルディアヌスが強気に出るとそれに調子を合わせるようにアウィトゥスも前に出た。閉まりそうな扉をはねのけながら身体を前に出し、肩で扉を押さえつつ松明を翳してグルギアを照らそうとする。そしてグルギアのフードを脱がせようと松明を持ってない方の手を伸ばした。
「あっ!」
「おっ!?」
アウィトゥスがグルギアのフードを掴むと、アウィトゥスとグルギアは同時に声を挙げ動きを止める。アウィトゥスはその後すぐに手を放すと、何か信じられないといった様子で先ほどフードを掴んだ自分の手を見た。
「?
何だ、どうしたアウィトゥス?」
「ゴルディアヌスのアニキ、コイツの着てる
「何ぃ!?」
眉を寄せ、ゴルディアヌスは我が耳を疑うような表情でアウィトゥスを見た。ゴルディアヌスを見返すアウィトゥスはどちらかというとキョトンとした表情であり、嘘や冗談を言っているようには見えない。
二人は同時にグルギアへ視線を戻した。グルギアは「ヒッ」と小さく悲鳴を上げて後ずさるが、すぐに背中が壁に当たる。扉は裏路地から少し入ったところにあるため、裏路地へ逃げるにはもう一歩か二歩、東へズレなければならなかったのだ。グルギアの眼前に松明の炎が迫る。
「悪いが、顔を見せてもらうぜ?」
特にそうしなくても普段から声にドスの利いているゴルディアヌスが言い、ゴルディアヌスとアウィトゥスがそれぞれ手を伸ばし、二人で同時にグルギアのフードを掴んだ。そしてローブの生地の感触を確認すると、フードを後ろへずらしてグルギアの頭と顔を松明の灯りの下に晒しだした。
ただでさえ細面なグルギアの、痩せこけた怯えた顔が露わになる。
「す、すみません
私、ホントに、ホントに知らなかったんです。」
両手を胸の前で合わせ、固く目を閉じて祈るように震える声で弁明するグルギアの訴えを、しかし二人のホブゴブリンたちは聞いていなかった。
「えれぇ痩せてやがる、ヒトの女だ……」
「ロムルスが言ってた奴か?
ホントに骨と皮だな……」
下から覗き込むように見上げる二人のホブゴブリンの表情は、先ほどのように険しくはなかった。どちらかというと何か呆れているようであり、珍しがっているようでもあり、どこか今にも笑い出しそうな雰囲気すらある。
え……なに!?
薄目を開けると、身を屈めて下から見上げるホブゴブリンたちからは害意は感じられない。戸惑うグルギアに、ゴルディアヌスは半笑いを浮かべて尋ねた。
「おいアンタ、
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