第1129話 戦況予想
統一歴九十九年五月十一日、夕 ‐
ルーベルトの示したエルネスティーネによる予想……それが真かどうかは何とも言えない。少なくともラーウスはそれを否定する根拠を持たなかった。ラーウスは
降臨者をアルビオンニアが預かる代わりに
が、アルビオンニア側が『勇者団』によって大きな被害を受けたのは事実である。これを放置することは
で、
ラーウスは上体を脱力させたまま右手を顔にやり、口元を覆うように人差し指で上顎をさする。
ラーウスからするとルーベルトは体よく責任をアルトリウシア軍団へ
「いかがですか?」
疑念の眼差しを向けたまま黙り込んでしまったラーウスの反応を促すようにルーベルトが問いかけると、ラーウスは口元を覆っていた手を肘掛けに降ろす。
「なるほど、侯爵家の皆様がそのようにお考えなのは理解しました。」
しかし、
背中は背もたれに預けたままではあったが、顎を引いて上目遣い気味にルーベルトを見据える。
「で、小官に軍人としての見地からの助言をお求めとのことでしたが?」
ラーウスはあえてルーベルトの言ったマルクスの暴挙に関する考察に対しての論評は避け、ルーベルトの求める助言について先を促した。ここでマルクスの暴挙の背景に関するルーベルトの考察について、軍団の責任を否定しょうと
ラーウスは
身構えるラーウスにルーベルトはわずかに目を細める。
「ええ。
ええそうです。
我々がサウマンディア側に誤解を与えたとなれば、それを解消せねばなりません。」
「もしも、
軍団の作戦方針は子爵家はもちろん侯爵家も、いやエルネスティーネやルキウスからも承認されている。今更変更はできない。予防線を張ろうとしたラーウスをルーベルトは遮った。
「
申しましたでしょう、助言をいただきたいと?」
「では何を?」
「伺いたいことは三つです。」
ルーベルトは身体を揺すって椅子の座りを整えると、前屈みに身を乗り出して声を潜めた。
「
カエソー閣下は《
そして
「んーーーーっ」
ラーウスは難しそうに眉を寄せ、口を真一文字に結んで唸った。それらはいずれもラーウスに答えられる問いではない。回答するために必要な確たる根拠となる情報がまるで揃っていないからだ。だが、答えないというわけにもいかない。
「まずこれは小官の個人的な予想にすぎないことを御理解ください。」
ラーウスがそう前置きすると、ルーベルトは「構いません」と言って先を促した。
「
捕虜を連れたカエソー閣下が
「ということは、カエソー閣下はやはりアルトリウシアからサウマンディアへ帰るのを諦めざるを得ないのでしょうか?」
「それは分りません。
しかし、こちらの可能性が実現するかどうかは未知数です。
何せ我々は
他にもカエソーが捕虜を奪還されてしまった場合も考えられるが、そちらの可能性はあえて口にしない。
ルーベルトは前のめりになっていた上体を起こし、顎に手を当ててしばし考える。その顔には憂慮の念が浮かんでいた。結局、ラーウスの言っている予想はこれまでに聞かされていた観測とほぼ変わらない。つまり、ルーベルトの期待していた答えではなかったのだ。
ほんの数秒考えたルーベルトは諦めるように小さく首を振ると改めてラーウスに次の質問の答えを促す。
「では、カエソー閣下が
「それは出来ると思っております。」
「……根拠を伺っても、よろしいですか?」
「
降臨を起こすのならば目立たない方が良いはず。にもかかわらず、大勢の盗賊団をわざわざ掻き集めたということは、おそらく
つまり、
それが今では盗賊団が壊滅し、捕虜まで取られて戦力を減じているのです。
防備の堅い
ラーウスの答えはルーベルトの予想以上に明快であり、軍事には素人のルーベルトには疑念を差しはさむ余地のないものだった。もっとも、それも今まで聞かされてきたものと寸分も変わらぬものではあったのだが……。
「では最後に、各
「どのようにしてかは現時点では言えませんが、不可能だとは思いません。
ならば可能でしょう。」
改めて問い直すルーベルトの表情は、最初にラーウスに問いを突き付けた時に比べて雰囲気の軽いものに変わっていた。当初はルーベルトが何かラーウスを取り込んで軍団に影響を及ぼそうというような陰謀めいたものを企んでいるのではないかと警戒していたラーウスも、この人は単に不安を払拭したいだけだったのだと思いなおし、警戒を解いて断言する。
「少なくとも
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