第1328話 幸福な食卓の居心地悪さ
統一歴九十九年五月十二日・朝 ‐
リュキスカは居心地の悪さを感じていた。右隣に座っているのはエルネスティーネ・フォン・アルビオンニア侯爵夫人、リュキスカの暮らすアルビオンニア属州の
アルビオンニア属州に居る
もっとも、リュキスカはリュウイチに買われて“お手付き”になり、並みの聖貴族に互するほどの魔力を得た結果、現在では正式に
そもそも、
だいたい、今リュキスカの目の前に居る貴婦人はリュキスカにとってのパトロンでありスポンサーそのものなのだ。対抗できるはずもない。エルネスティーネやアンティスティアから見た評価は全く異なるが、しかしリュキスカの認識ではそうなのである。
リュキスカはリュウイチの
「大丈夫かしらリュキスカ様、食が細いようだけど?」
タマゴサラダをスプーンの先でちょっと掬ってはチマチマ食べるリュキスカの様子が気になり、アンティスティアが自らの食事の手を止め尋ねた。
「いえ! だ、大丈夫です。
アタイ、朝がちょっと苦手で……」
「本当に?
無理はなさってはいけませんけど、食べられるならキチンとお食べになった方がよろしくてよ?」
リュキスカが誤魔化すと今度は反対側からエルネスティーネも気遣いを見せた。
「いやいや、アタイ、ホントに大丈夫だから!」
「体調が悪い時は温かいものがよろしくてよ。
ほら、こちらのスープなんていかが?」
そう言いながらアンティスティアがスープ皿をリュキスカの前へ押し出してくる。するとエルネスティーネが反対側から相槌を打つように一緒になって勧めはじめた。
「そうね、それがいいわ。
パンを浸して食べるの。
食べやすくなるし、お腹も暖まるのよ」
「あ、ありがとうございます……」
リュキスカは二人に苦手意識を抱き始めていた。
”
だが好意に対してどう返せばいいかは慣れていなかった。もちろん好意には好意を返すものだと分かってはいる。自分と同じような境遇の貧民同士、娼婦同士であれば相手が何をどうすれば助かるか、どうしてもらうのが嬉しいかは理解しやすい。
しかし、今のリュキスカの相手は貴族だ。しかも一方的に助けられ、一方的に養われている状態で、リュキスカには返せるものが何もない。エルネスティーネとルキウスに依頼された仕事だって、今は果たせていない。それなのにこうも厚意を向けられることに、リュキスカは完全に参っていた。
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