第1192話 人選
統一歴九十九年五月十日、夜 ‐
メークミー・サンドウィッチ殿とナイス・ジェーク殿の御二人が
しかし、どうしたものか……
カエソーは目を開けると額にあてていた手を降ろし、背もたれから身体を起こした。
ペイトウィンをメークミーやナイスと一緒にするのは避けた方がいいだろう。ペイトウィンが二人を
「ひとまず
誰にハーフエルフ様の御世話を任せればよいのか……」
カエソーが憂鬱そうな表情で、誰を見るでもなく目の前の
高貴な人物の世話は高貴な人物によって為されねばらならない。聖貴族の世話は同じ聖貴族か神官の手によってなされねばらないだろう。だがさすがにルクレティアがするわけにはいかない。まだ彼女の背景は明らかにできないが、ルクレティアは既に降臨者に仕える
では他に誰が・・・となると順当に言えばスカエウァ・スパルタカシウス・プルケルとなるだろう。ルクレティアの
スカエウァにはメークミーとナイスの世話を任せてはいるが、ムセイオンの聖貴族を目の当たりにした彼はすっかり舞い上がって自分を見失ってしまっている。決して愚かな人間ではなかった筈だが、互いの立場をすっかり忘れてしまったかのようにメークミーとナイスに便宜を図り、擦り寄ることに夢中になっている。ヒトの聖貴族相手ですらこんな風なのだからハーフエルフを相手にしたとしたらどうなってしまうことか……
かといってレーマ側の聖貴族は今、ルクレティアとスカエウァの二人しかいない。二人には配下の
「
ルクレティアの声にカエソーはとんでもないという風に首を振る。
「ダメです。
彼は自分を見失ってしまっている。
ヒトの聖貴族を相手にしてさえ舞い上がってるのに、ハーフエルフ様など……」
カエソーは言いながら顔をあげ、自分を見つめるルクレティアの目に警戒が色濃く浮かんでいるのを見ると話を中断し、慌てて否定した。
「ああ!
さすがに既に
カエソーがそう断ると、ルクレティアは溜息をついて警戒を解きながらも憂鬱そうな表情は崩さなかった。
「ですが、それだと他に誰を充てるのですか?
まさか
「アルトリウシアから
ルクレティアの父ルクレティウス・スパルタカシウスならアルトリウシアの神官を束ねる立場だ。ルクレティアを通じて頼めば配下の神官を派遣してもらえるだろう。アルトリウシアからここまで一日の距離……こちらはどうせダイアウルフのせいで足止めを食らうのだから、その間に派遣して貰えれば都合がつく。
しかしルクレティアは頭を振った。
「無理です。
ルクレティアはレーマ帝国屈指の名門聖貴族の家系であり、父ルクレティウスはその頂点に立つ宗家当主だ。ムセイオンにも長く滞在して研究に身を投じていた時期があり、おそらくペイトウィンとも知己があるだろう。だが一昨年の火山災害の際の余震で倒壊した家屋の下敷きになってしまい、以来下半身不随になってしまっている。呼べば来てくれるかもしれないが、ペイトウィンの世話をするどころか逆に世話になってしまう羽目になりかねない。
二人が話し込んでいる間にクロエリアが戻り、カエソーの前にかすかな湯気を立てるワインの入った
「はぁ~~~……」
身体が芯からホカホカと暖まり始め、鼻からワインと蜂蜜の香が吹き抜けていく。
やはり酒を飲みほした後のこの心地よい瞬間が好きだ。何とも言えぬ……
ああ、全部忘れてこの瞬間を永遠に味わうことが出来たらいいのに……
しかし、現実はそうもいかなかい。彼は貴族であり、軍人であり、今この場における最高位の責任者なのだ。その立場は否応なく現実を突き付けてくる。
「失礼いたします!
グルグリウス様、スパルタカシウス・プルケル様がおいでになられました!!」
グルグリウスはペイトウィンを
そうか!
カエソーはパッと目を見開くと、手にしていた酒杯を
「おお!
グルグリウス殿!!」
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