第1191話 二人の感想
統一歴九十九年五月十日、夜 ‐
ミスリルの武具を一そろいホブゴブリンに装備させるほど
誇らしげに語るペイトウィンの推理は、まさかリュウイチの降臨を看破されたのかと身構えていたカエソーたちの予想の遥か斜め上を突き抜けて行った。唖然とするカエソーはペイトウィンから「どうだ、当たってるか?」と笑いかけられ、ハッと我に返るとペイトウィンにつられたような引きつり笑いを顔に浮かべながらルクレティアらの方を一度見回し、申し訳ありません
とにかく、南蛮の王に会わせろ。このペイトウィン・ホエールキング二世が会いたがっていると伝えろ。何、向こうも嫌とは言わんさ。ムセイオンのハーフエルフが会いたがっていると言われて断る奴なんかいるわけないだろ?あぁ~あぁ~面倒なことは言わなくていい。
「ふぅぅぅーーっ」
あれがハーフエルフなのか……何とも言えない感慨が残る。
この点、ペイトウィンのカエソーに対する態度が大きくなるのは仕方ない。レーマ帝国でも有数の権勢を誇るとはいえカエソーの実家は所詮一
だが、人間の立場や身分は絶対的なものではない。少なくとも、レーマ人にとってはそうだ。
しかし、カエソーの見たところペイトウィンにはそうしたものが無かった。
『勇者団』はとてつもない犯罪を犯している。社会的責任のある地位にありながらムセイオンから脱走し、降臨を引き起こそうと
だというのに、その『勇者団』の中枢にいたハーフエルフのペイトウィンは自分の身分が絶対的なものだと信じて疑っていないようだ。それはペイトウィンが全ての人間は本質的に平等とするストア派的な考え方ではなく、聖貴族は優れた魔力を有するがゆえに
「お疲れの御様子ですが、何か飲み物を御用意しますか?」
ペイトウィンを
「ああ、ワインを頼む。
ああ、温めてくれた方がいいな。
できれば蜂蜜を足してくれ、たっぷりと。」
背もたれに体重を預け、顔を覆うように額を押さえたままカエソーが呻くように注文すると、ルクレティアは脇に控えていた専属侍女のクロエリアに頷いた。クロエリアは無言のまま会釈すると、カエソーの希望を叶えるべく部屋から退出していく。元々レーマでは甘いワインが好まれているが、ホットワインは冷えた身体を温めてくれるだろうし、甘いワインに更に加えられる蜂蜜は疲労を回復してくれるだろう。蜂蜜は単なる甘味料ではなく、精力剤としての効能もあるのだ。
クロエリアが退出したのを見送ったルクレティアは、カエソーの向かい側の長椅子に腰かけた。
「……見た目は、肖像画で見た通りの御方でしたな。」
ルクレティアが腰かけたのを気配で察したのか、カエソーがそのままの姿勢で目を閉じたまま話しかける。
有名人の肖像画は時に配られ、時に買い求められるものだ。いつ、自分より高貴な身分の人物に会うか分からないし、その時に相手が誰だか分からずに無礼な態度を取るなど失敗しないよう、貴族は高貴な人物の肖像画を可能な限り買い求めてその時に備えるのだ。レーマ帝国では皇帝とその家族の肖像画や彫像は定期的に全ての地方領主に配られていたりもいる。また、近しい人物ほど肖像画を入手しやすいこともあって、身分の高い人物の最新の肖像画をより多く、より早く手に入れることは貴族にとって一つの権勢のバロメーターにもなる。このため、肖像画の需要は常に高い。
カエソーもルクレティアも、共にレーマに留学した経験があったため、二人ともその時にペイトウィンの肖像画は見た事があった。
「はい……口調も、貴族らしく話しておられる時は演劇で見た通りでした。」
ルクレティアが答えると、カエソーは額を押さえたままフッと笑った。
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