第1190話 迷探偵
統一歴九十九年五月十日、夜 ‐
「・・・・・・」
そしてルクレティアと《地の精霊》はヴァナディーズ暗殺のためにシュバルツゼーブルグに侵入したファドを退けた。ブルグトアドルフの
それらの戦いに関わっていたはずのレーマ軍の存在を無視しているわけではないが、レーマ軍はルクレティアを護るように行動していたし、ルクレティアはレーマ軍よりもよっぽど強力な
が、実際はそうではなかった。レーマ軍の指揮はカエソーが取っており、ルクレティアはレーマ軍に協力しているだけ……だとすればルクレティアに宛てた手紙が
勘違いで無関係な少女に嫌味と敵意をぶつけてしまっていた……普通なら謝らねばならないところだろう。が、ペイトウィンはそこまで大人ではない。
上下関係を明確にすることでしか人間関係を築くことのできない者は、自らの落ち度を簡単に認めることが出来ない。特に、他人を批判することで上下関係を築いてきた者は
ゆえにペイトウィンも自らの落ち度は簡単には認めない。自分の勘違いによって何か失敗があったのなら、それは勘違いした自分ではなく、自分を勘違いさせ者が悪いのだ。そう、失態は勘違いをさせた者のせいであって、自分は犠牲者なのだから責められるべきではない……それがペイトウィンのような者の思考パターンである。
「じゃ、じゃあ何でこんなところに居るんだ!?
関係ないなら居るべきじゃないだろ!」
そうだ、俺に勘違いさせた奴が悪い。勘違いしなければ俺だって見苦しい失態など演じないし、意味も無く見ず知らずの少女を傷つけるようなことはしない。誰が本当に悪いのか、明らかにしてやる!
ペイトウィンのそうした考えは常人の理解の及ぶところではない。何故、ペイトウィンがここまで感情を露わにして
「それは、我らが《
カエソーの努力はしかし無駄には終わらなかった。《地の精霊》……その名はペイトウィンに自らの失態を忘れさせ、結果的にこの場を次のステージへ勧めさせることになったからだ。
「それだ!」
ペイトウィンは指を鳴らすと、その動作から流れるようにカエソーを指差した。
「《
「……《
「何かじゃない!
何故だ!?
どうやってあれだけ強力な《
「ど、どうしてと言われても……」
カエソーには答えられない。その答を知ってはいるがそれをペイトウィンに話すことは出来ない。《地の精霊》の主人であるリュウイチのことはまだ話すことはできないからだ。答えに困ったカエソーの視線は自然とルクレティアに、そしてグルグリウスへと
誰も答えようとしない状況でペイトウィンの口が回りだす。
「もちろん推測は立つさ。
例えば
話しながらペイトウィンが視線を向けると、リウィウスは
「ファドの剣を
ファドの剣は
それを使うファドの剣技だって
それを弾けたってことは、それは
「「「・・・・・・・」」」
カルスは相変わらず何もせずにペイトウィンを睨み続け、リウィウスは円盾の裏に仕込んだ
チラリとヨウィアヌスの剣の鞘が動いたのを見たペイトウィンの口角がわずかに上がった。
「まさかとは思ったが……お前らの装備、ミスリル製だな?」
ペイトウィン・ホエールキングは世界でも有数の聖遺物保持者であり、それゆえに目利きとしても知られている。そのペイトウィンの前にリュウイチから貰った聖遺物を身に着けたまま出るのは危険ではないかという予想はしないではなかったが、今は月も隠れる闇夜。光は離れたところで掲げられた
「
カエソーがペイトウィンを
「三人のホブゴブリンに全く同じミスリルの防具を一そろいずつ与えるなど、よほどの聖貴族でもなければできんなぁ。
世界一たくさん
ペイトウィンを制止させようと思わず一歩踏み出したカエソーだったが、ペイトウィンがすかさずグイッと身体を捻ってカエソーの方へ向き直ると、カエソーは思わずその場に踏みとどまり息を飲んだ。
「ホブゴブリンを
余程すごい奴だな?」
「
説明しようとするカエソーをペイトウィンは手を
「ソイツは人間だ。間違いない。
《
まして年頃の姫君を守ろうって言うんだ。
答は簡単に想像がつくってもんだ。」
そこまで言うとペイトウィンは腕組みして胸を張った。ゴクリと唾を飲むカエソーたちに勝ち誇ったかのようにペイトウィンは己が推理を披露する。
「その正体は、南蛮の王だろう!?」
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