第336話 聖女の装備
統一歴九十九年四月三十一日、夕 - マニウス要塞陣営本部/アルトリウシア
リュウイチと食卓を囲むルクレティア、リュキスカ、ヴァナディーズの三人の表情は複雑であった。
食卓の話題といえばだいたいその日あった出来事というのが相場であろう。この日の彼女らもそうだった。そしてそれは必然的に今日という日に起こった出来事の内最も衝撃的だったこと、すなわち
最初は何と言うことの無い世間話みたいなものだった。見たこともないショーを見て興奮して感想を言い合い、ショーを見せた演者を褒めたたえるような、そんなありふれた話であった。
あれはなんだったのですか?まあ、マッド・ゴーレム!?あれが!?初めて見ました。いいえ
人を誉めて煽てるなど、
しかし、流石に凄い凄いだけでは話も続かない。当然ながら、じゃああのゴーレムはいったい何で召喚したのですか?という話になる。最初はルクレティアもリュキスカもヴァナディーズも、単にリュウイチが実験みたいなものをしていたのだろうと考えていた。だが、リュウイチの話を聞くとどうやら違っていた。
まあ、指輪に《
リュウイチも褒められれば悪い気はしない。自分本来の力ではなく《
そして話題はごく自然な流れで、じゃあ何で《地の精霊》の力を封じた魔導具をわざわざ作ったのか?という疑問に行きついた。
「だって、
わざわざ
リュキスカはふと気になった疑問を何の気なしに口にする。
『ああ、これはもちろん自分で使うための物じゃないよ?』
表情はそのまま変わりなかったが、彼女たち三人の内心ではこのリュウイチの答えに緊張が走った。自分で使うための物じゃないとすれば、自分以外の誰かに使わせるということだ。だが、そのような魔導具を使いこなせる
「じゃ、じゃあ、誰かに使わせるのかい?」
「え、いや、まさか!そんな強力な魔道具なんて、誰も使いこなせないわよ!?」
「そうですよねぇ…きっと、魔力とかも必要なのでしょうし…?」
「あ、ひょっとして売ってお金に替えるとか!?」
「いや待って!何でそうなるの!?」
「だって、昨日金貨を両替しそこねたって…」
「そうかもだけど、魔道具なんて売って良いわけないじゃないですか!」
「そうですわ、リュウイチ様もそれくらいご承知です!
そうですよねリュウイチ様?」
わずかに引きつった笑みを浮かべながら自分たちだけで会話を進めた三人はリュウイチに話を振ると同時に一斉にリュウイチの顔色をうかがう。
『あ、ああ、もちろん売るものじゃないよ。』
三人はリュウイチにバレないように顔に笑顔を張り付けたまま安堵のため息をつく。少なくとも不特定の誰かの手に渡ってしまう危険性はなさそうだ。しかし、まだ安心はできない。
「じゃあ、コレは誰か渡す相手がきまってんのかい?」
リュキスカの質問は彼女たちにとって重要だった。渡す相手が分かったならそれをいち早く報告し、エルネスティーネなりルキウスなりに何らかの手を打ってもらわねばならない。
『うん、コレはルクレティアに使ってもらおうと思って用意したんだ。』
「「ルクレティア!?」」
「わ、私!?」
さすがに三人の顔から笑みが消え、三人ともリュウイチを見たまま固まってしまった。
『うん。ほら、アルビオンニウムに行くって言うから…この
リュウイチは魔導具を一つずつ名前と効果を説明しながらテーブルの上に置いていく。
三人とも顔色を失い、リュウイチの魔導具を見ていた。
いずれも『超』の字がつくほどの貴重品である。中には古のゲイマーたちが装備していた魔導具とされ、ムセイオンに保存されている物と同一と思われるものもあった。《レアル》現代風に言えば、それは世界遺産に登録されたハイテク大量破壊兵器といったところだろうか?
「では、これを、
『そう、そのつもりで用意したんだ…その…』
リュウイチは言いづらそうにルクレティアとリュキスカの顔をチラッチラッと見比べる。
『リュキスカに、自分にばかり物をくれないでルクレティアにもいろいろプレゼントした方がいいって』
「リュキスカさん!?」
ルクレティアとヴァナディーズがパッとリュキスカを見、それに気づいたリュキスカが慌てて手と首を振って弁明する。
「いやいやいや、待っとくれよ!
アタイ…いや確かに言ったけど、アタイそん時はまだ
それはリュキスカがリュウイチの専属娼婦となった直後、ルクレティアの嫉妬を買わないようにするためにリュウイチに言った事だった。リュキスカはここに連れてこられた時、商売用のスケスケの
リュウイチの夜伽係に過ぎない自分が、婚約者であるルクレティアを差し置いて厚遇を受けていたら、ルクレティアの体裁だって悪いし嫉妬も買うのが当然だ。だから、自分に何か物をくれるならルクレティアには自分以上にプレゼントしてやってほしい…そうお願いしていたのだった。
『あれ、不味かった?』
「はい、あの…おっ、お気持ちはありがたいのですが…」
『でもルクレティアは私の聖女なんでしょ?』
「いやっ…あ~あ~あの…そそそ、そうなんですけど…」
そう言われると断りづらくなる。
そういう意味で、降臨者であるリュウイチが聖女に何を与えようが自由である。実際、奴隷たちに魔導具なんかは与えないでほしいという要望はされているが、同時にそれを禁じることはできないと明言もされている。ならば聖女に魔導具を与えて悪い道理があるわけがない。
そして、聖女になることに何よりも憧れていたルクレティアには、リュウイチにそう言われると拒否することはできなかった。顔を真っ赤にして俯き、しどろもどろになってしまう。
「いや、まだ、正式には、そのっ…まだっですっし…」
ルクレティアはなけなしの理性を総動員して何とか穏便に断る方便を探しはじめる。しかし、何も思い浮かばない。確かにルクレティアが聖女ならば、リュウイチに受け取れと言われれば受け取らざるを得ない。そして、聖女にあこがれ続けていたルクレティアとしては、聖女として認めてくれた上でのこの提案は自己承認欲求を満たしてくれるものであり、抗いようのない魅力を持ったものだった。
『君の事は聖女として迎えるっていう約束がある。
これはその証ってことで、受け取ってほしい。』
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