第1220話 サウマンディア軍団の到着
統一歴九十九年五月十一日、昼 ‐ ブルクトアドルフ/アルビオンニウム
レーマ帝国の
他人の領地とはいえ同じレーマ帝国、軍団を預かる身としては溜息を禁じ得ない。だが、それが仕方がない事も良く分かっている。理由は簡単、この街道を利用する者が居なくなってしまったせいだ。
一昨年、火山災害を受けてアルビオンニウムが放棄されて以来、ライムント街道の起点となるアルビオンニウムは無人地帯となってしまっている。街道を行き来する軍勢も商隊も無いのだから、警備も最低限しか置けない。
では本来なら街道周辺の法面の草刈りを誰がどうやっているのか? それは羊飼いたちの仕事だ。羊飼いが羊や山羊を引き連れて街道に沿って移動し、法面の草を羊や山羊たちに
が、今やアルビオンニウムは無人の廃墟と化し、羊飼いたちも家畜と共に避難させられたため、アルビオンニウム周辺に街道沿いの法面の雑草を処理してくれる存在は居なくなってしまった。それから二年、手付かずになった法面は最早荒れ放題であり、普通に見回しても腰ぐらいの高さの草が一面に生え、ところどころに人の背丈よりも高い茂みさえ出来上がってしまっている。何とかしなければならないだろうが、しかしアッピウスにとっては他人の領土、サウマンディアの貴族がアルビオンニア属州の街道について文句を言うわけにはいかない。
だが、このまま放置というわけにもいかんな……
この周辺地域はこれからアッピウス率いるサウマンディア軍団の活動地域となるのだ。敵対してくるかもしれない
アッピウスは一昨日始めて会った、
確かフルーギー……ユーニウスといったか?
面倒そうな奴だったが、職務には実直そうだ。
奴に言えば
他人の領土である以上、雑草であっても勝手に処理することは
そんなことを考えているうちに彼の軍勢の隊列はブルクトアドルフの街へ近づいてきた。馬上からは既に戦禍に
しかし、サウマンディアの軍勢が近づいて来るのを見ると作業の手を止め、街道沿いへと集まって来る。
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街道沿いに出て来た住民たちは汚れた、みすぼらしい恰好のまま手を挙げ、拳を振り、アッピウスとその配下の
数百人の軍勢を歓迎するのはわずか十数人……いずれも一昨日来た際に見た顔ばかりである。それが今、ブルクトアドルフに残っている住民の全てだった。彼らにとっても一昨日の記憶は新しく、アッピウスらが憎き盗賊団の残党を掃討しに来てくれたことを憶えており、また期待もしている。
今更取り返せる物など無いだろうが、せめて仇は討たねば死んだ仲間たちが浮かばれない。復興も大事だが、無法な行いには
ささやかではあるが声を
ふむふむ、いいぞお前たち。
人数は物足りないが、その声に応えるのは悪い気はせん。
しかも今、ブルグトアドルフの住民たちから寄せられている期待は、これからアッピウスが成そうとしていること。どのみち片づけねばならない仕事なのだ。だが誰にも評価されない仕事など貴族の仕事ではない。他所の領民とはいえ、こうして住民たちが自分の仕事に期待し、そして名声を高めてくれるとあればアッピウスにとってそれは喜ばしいことなのだった。
さて、噂のハーフエルフ様はいずこかな?
アッピウスは既に勝利を確信していた。甥のカエソー率いる二個
土地勘に乏しいのは我らもハーフエルフも同じ。
だが我々は地元
それに、さっきのあの様子なら地元民も積極的に協力するだろう。
不安要素はもはや一つもない。
半ば廃墟となりかけているブルグトアドルフの街を抜けたアッピウスは、配下の軍勢と共に第三中継基地へ続く坂道を登り始めたのだった。
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