第377話 増援部隊
統一歴九十九年五月五日、未明 - ライムント街道第三中継基地/アルビオンニウム
「出撃するぞ、
アヴァロニウス・ガルバ!!」
セプティミウス・アヴァロニウス・レピドゥスは椅子を蹴るように立ち上がって吠えた。ルクレティアから聞いた《
しかし、ブルグトアドルフから逃げてきたカサンドラの報告により、ブルグトアドルフの危機を報せ救援を請いに来た男が住民に成りすました敵であったことが明らかになった今、救援部隊が罠にハメられたことは確実となった。
わざわざ住民を偽装して救援を要請してきたということは、救援部隊を誘い出すことが目的なのは疑いようがない。そして、《
敵は最初から救援部隊を襲うつもりで待ち構えている…ならば、町を襲っている賊を側背から奇襲するなど出来るわけがない。すぐにでも救援に向かうべきであった。
「ハッ!」
セプティミウスに名前を呼ばれた
「貴様は全騎兵を率いてブルグトアドルフへ急行し、
間に合わんだろうが、報せんわけにもいかん。」
「ハッ!」
「間に合わなかった場合は支援にあたれ!
危機に陥っているようであれば救出を試みよ!
追って、
「ハッ!」
マールクスは《レアル》古代ローマから受け継がれてた見事なレーマ式敬礼を見せると、小脇に抱えた
「待ってください!!」
マールクスが部下たちの下へ今にも駆けだそうとする瞬間、ルクレティアが引き留める。
「どうされましたかな、
「お、御忘れですか?
その…」
何か重要なことを言おうとしているのは確かだが、何故かルクレティアは口ごもってしまう。気づけばルクレティアはブルグトアドルフから逃げてきたカサンドラの方を気まずげに横目で見ながら、セプティミウスに必死で何かを言おうとしている。
だが、何も言わず自分の右手の薬指にハメた指輪をそれとなく示して無言で訴えた。
「ああっ!…」
セプティミウスはようやくルクレティアが《
「あ~、カサンドラと言ったな?」
「
急に話を振られてオドオドと戸惑いながらカサンドラはセプティミウスを不安げに見上げた。
「見たところ随分と汚れているようだし怪我もしているようだ。
部屋とお湯を用意してあげるから身体を洗って、怪我の手当てを受けると良い。
誰か、彼女を奥へ…」
「あ、ありがとうございます…???」
「どうぞ、こちらへ…」
ルクレティアの侍女たちがイマイチ状況を理解できずに困惑しているカサンドラを連れて建物の奥へ消えていった。
「さあ、何ですかなルクレティア様?」
もう貴女が
「ご配慮感謝します
《
ここの周りにも敵が潜んでいます。」
「ルクレティア様、ここには
ここの防備については御心配には及びません。」
てっきりルクレティアが自分の身を守る護衛部隊が居なくなって、そこを敵に襲われることを不安に感じているのだろうと予想したセプティミウスは、やや呆れをかみ殺しながら愛想笑いを浮かべて言った。だが、ルクレティアは怒ったように語気を強めて否定する。
「そうではありません!」
セプティミウスもセプティミウスと同様に軍事に素人な
「私には今、《
強力なゴーレムだって、ウィル・オ・ザ・ウィスプだって召喚できます!魔法だって使えるんです!
ルクレティアを戦力として評価したことの無かった軍人たちは虚を突かれ、そのまま口ごもってしまった。
「あ~、オホンッ…そ、それではルクレティア様、いったい何を?」
「はい…その…私は
ここを敵が囲んでいるはずなのに、敵はまだ手を出してきていません。
ならば、ひょっとして敵は我々が出てくるのを待ち構えているのではありませんか?」
「待ち構えている?」
「はい…その…わかりませんけど…敵は町を襲ったと見せかけ、
「恐らくそうでしょう。
彼らをハメる罠です。だから彼らを…」
セプティミウスの説明をルクレティアは
「でも敵の部隊はこっちにもいて、隠れています。まだ攻撃してきてません。」
「それは…
おそらくこちらが予想以上の戦力なので攻めあぐねておるのでしょう。」
たしかに敵がここの近くに潜んでいながら攻撃を仕掛けてきていないことに、セプティミウスも疑問に思ってはいた。おそらく、攻撃の準備はしたが攻撃開始の条件が整っていないのだろう。ではその条件とは何か?時間かもしれないし、更なる増援を待っているのかもしれない。ただ、敵が何をしようとしているのか目的がまだ分からない以上、賊の出方を予想することは出来なかった。
現状でそれ以上の事を考えるのはあまり意味が無い。時間を無駄にするだけだ。もし、戦力にも時間にも余裕があるなら、潜んでいる敵を炙り出して攻撃してやってもいいだろう。だが、今はそれどころではないのだ。最寄りの集落が襲われて、それを救援に向かった部隊が罠に落ちようとしている。敵が攻撃をしかけてこないというのなら、まずは目の前の危機に集中しなければならない。
ルクレティアは
「もしも、敵が
「つまり、我々が増援を送り出すのを阻止するのが、ここらに潜んでいる敵の役目だというのですか?」
セプティミウスがルクレティアの慧眼に感心しつつ問いかけると、ルクレティアは急に自信を無くしたように俯き、
「わかりません。
もしかしたら、増援が出て行ってここが手薄になってからここを襲うつもりなのかも…ああ、でもっ!でも、少人数で出て行けば攻撃されるのではありませんか?」
「ルクレティア様はどうせよとおっしゃりたいのですかな?
救援部隊を出すなとでも?」
セプティミウスはわざと意地悪な質問をし、ルクレティアはパッと目を丸くして必死に言いつのった。
「違います!そうでは…」
「分かっています。大丈夫ですよルクレティア様。」
さすがに一回り以上年下の小娘相手に大人げなかったと自省しながら、セプティミウスは笑みを浮かべてルクレティアを宥める。
「御忠告はありがたくお受けします。
ですが、これ以上は実際に動いてみなければ敵の出方も探れません。
敵が潜んでいるというのなら、むしろつついてやりましょう。頭だけ隠して尻を丸出しにして、まだ見つかってないと思い込んでるアヒルどもを
セプティミウスが控えていた
「ハッ!」
「もちろんであります!」
「よし、座ってるアヒルどものケツを蹴り上げてやれ!」
彼らはニヤッと笑うと見事な敬礼を返した。
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