第1394話 いさかい
統一歴九十九年五月十二日・午後 ‐
報告会はつつがなく終了した。元々アルビオンニア貴族たちがリュウイチに自分たちは頑張ってますよ、リュウイチ様の融資は無駄にしてませんよというアピールのために行われる一種の
ただ、今回はチョットしたハプニングみたいなことはあった。昨日のマルクス・ウァレリウス・カストゥスからの申し出を受け、アルビオンニア側も大至急画家を用意するという報告がなされ、そこで自分の肖像も描かれると聞いたリュキスカが驚き、一瞬取り乱したのだ。これはリュウイチがリュキスカに話しておくべきことだったのだがすっかり忘れていたのだった。
「
リュキスカは見え透いた
「兄さん、アタイ肖像描いてもらうなんて話聞いてなかったんだけど?」
控室に戻ったリュウイチが
『え、いやぁ、うん』
リュキスカの冷たい声にリュウイチは思わずしどろもどろになる。
『昨日、急に持ち上がった話なんだ』
「昨日持ち上がった話なら、今朝話せたじゃないさ?」
『まだ正式に決まった話じゃなかったんだよ!
だからその、正式に決まってから言おうと思ってたんだ』
リュウイチの説明は正確ではなかったが全くの嘘でもない。リュキスカに言うべきだとは思っていたのだが、リュウイチは肖像画の話はまだ正式に決まった話ではないと認識していたので他の話題よりも優先度を下げ、結果言い忘れてしまっていたのだ。
だがこれはリュウイチの誤解もある。肖像画を描くということ自体は貴族たちの間では既に決定事項だった。ただ、どの画家にどのように描かせるかという具体的なところが決まっておらず、それを今後話し合って決めましょうという話になっていたに過ぎない。それをリュウイチは話が具体的なところまで煮詰められて初めて正式に決まったと言えるのだと考えていたので、まだ正式に決まったわけではないと誤解していたのである。
「ふーん……」
リュキスカは腕組みをし、リュウイチが目を泳がせながらする説明を
「ネロさん!」
「ハッ!?」
リュウイチの目をジッと見つめたままのリュキスカに唐突に名前を呼ばれ、ネロは虚を突かれながらも反応する。
「どうなんだい?」
え、オレ信用無いの!? リュウイチはリュキスカが目の前でネロに確認を取ったことにちょっとショックを受けた。
「何がでありましょうか!?」
ネロはリュキスカの態度を不快に思いながら、それを押し殺すためにあえて軍人っぽく硬い態度で問い返す。
「兄さんの言ったことさ。
ホラ、兄さんは《レアル》から来たんだからさ、こっちの世界の事、たまに分かってなくて勘違いしてたりするじゃないさ。
ネロさんの目から見て今回もそういうことは無かったのかいって訊いてんのさ」
ネロは口をへの字に曲げた。リュキスカの女性にしては明け透けな態度は
「ございません!」
「ホントかい!?」
「
リュキスカはネロの態度から本能的にネロが正直に話してないと悟った。初めて会った時からネロはリュキスカのことを嫌っていたし、それはリュキスカが魔力を得て正式に
「ロムルスさん、どうなんだい!?」
これは
「いや、あ、じ、自分でありますか?」
唐突に始まった修羅場に内心でウキウキしていたロムルスは突然その渦中に引きずり込まれ慌てふためいた。リュウイチは額に手を当て
「この部屋にロムルスなんて名前の人、他にいないじゃないさ!?
アンタも昨日は一緒にその場に居たんだろ?」
「い、いました……」
「じゃあ答えられるだろ。
どうだったんだい?」
「
見かねたネロが口を挟んだ。リュキスカはキッとネロを睨みあげる。
「
リュキスカはネロを睨んだまま興奮を抑え込むように無言のまま数度呼吸を繰り返し、チラリと視線だけでうつむいたままのリュウイチを見、すぐに視線をネロに戻すとボソッと答えた。
「信じられないねぇ」
ネロは目を更に丸く、小鼻を膨らませて息をスッと勢いよく吸うと、あえて声量を抑えて訴えた。
「
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