第1034話 作戦漏洩の影響
統一歴九十九年五月十日、午後 -
グナエウス街道を襲うダイアウルフを掃討する……そう聞けば物々しいが、作戦を立案した
「情報漏洩の可能性については
しかし、気にしている様子はありませんでした。
『やることは同じです』……と。」
ラーウスはアルトリウスに対して神妙な
「当然だろうな。」
ラーウスの予想に反してアルトリウスに動揺は見られない。
「むしろ、作戦が漏れている方がうまくいくかもしれん。」
アルトリウスはゴティクスが立てた作戦について、事前に書面で知らされていた。当然だろう。作戦には地元の
ちなみに、炭焼き職人たちも領主貴族の家来となっている。もっとも、炭焼き職人全員がではなく、炭焼き職人たちの親方が領主貴族の下級使用人として仕えており、親方以外の炭焼き職人は親方の使用人という扱いだ。そして親方は領主貴族の下級使用人ではあるが、領主貴族と直接の面識はない。下級使用人たちは領主貴族に直接接する上級使用人の指揮下にあって、領主貴族と直接会う機会も口を利く機会も与えられることは無い。
「手の内が知られている方が、上手くいくのですか?」
ラーウスは意外そうに目を丸くした。そのラーウスにアルトリウスは小さく笑う。
「目的はダイアウルフを討ち取ることではないからな。
要は、追い払えさえすればいいのだ。」
「こちらの出方が分かっているのなら、それなりの対応をしてくるのでは?」
何であれ相手の出方が分かっていれば対処のしようはある。であるならばこちらの出方が相手にバレてしまえば、それに対処されてしまうということでもある。ラーウスのその考えは当たり前と言えば当たり前であった。が、アルトリウスは逆に驚いた。
「どう対応するというのだ!?」
ギッと椅子を
「どうって……」
「あの手紙には作戦の概要は書いてあったが詳細までは書かれていない。
書いてあったのは
「いえ……一応、投入予定戦力も書かれています。」
「その戦力の配置や何をさせるかがわからないのなら書いてないのと同じだ。
二十マイルはある街道を山林という戦場に面した作戦正面と考えるなら、あまりにも幅が広すぎる。どこが
ラーウスがたじろいでいるのに気づいたアルトリウスは少し気まずそうにすると、再び椅子に腰を落ち着けた。
「あの手紙から分かるのは最大四個
戦力の配置や参加部隊の行動予定が克明に記された作戦計画書が漏れたならともかく、こちらの作戦が無効化してしまう可能性など考えなくてよいだろう。」
「……逃げられるかもしれません。
討伐できなければ、それは無効化されたのと同じでは?」
「ラーウス・ガローニウス・コルウス。」
言い
「言ったろう?
要は追い払えればいいのだ。ダイアウルフを討ち取ることが目的じゃない。」
「むっ」
アルトリウスに言われ、自分の失敗に気づいたラーウスは顔を
「
オオカミ用のだが、森中に、これ見よがしにな。
そしてそれは別にダイアウルフを捕まえるためにじゃない。
ダイアウルフにはどうせゴブリン騎兵が同行しているんだ。罠なんて見抜けるだろうし、掛かっても解除されてしまうだろう。
その目的は……聞いたんだろう?」
「はい閣下、ダイアウルフに……というより、ゴブリン騎兵の警戒心を喚起し、行動を抑制させることです。」
「そうだ。
敵に、こちらがお前たちを討伐しようとしているぞと、これ見よがしに罠を張ることで教えてやるのだ。それによって敵は更なる罠を警戒し、自然とその行動範囲を狭めていかざるを得なくなる。
ならば、ここで敵があの手紙を読んだとしてどうなる?
手紙を読んだだけで逃げてくれるのなら、むしろ好都合ってもんじゃないか?」
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