第824話 子離れできぬ母
統一歴九十九年五月十一日、昼 ‐ 『
「あの子ったらいつもイイ子にしてくれているけど、本当はもう何でも自分で出来るって思ってるのよ?
たしかに、ムセイオンの中や
でも外の世界に出ればいくら魔力があったってどうしようもないことなんていくらでもあるの。あの子はスクワラに降られて初めてそれを知るのよ。」
フローリアの顔は息子ルード・ミルフ二世を
「その……よろしいのですか?」
彼からすると雨程度で
「ええっ、あの子には良い薬になるでしょう。
雨に降られて『ディメンジョン・ウォーク』も使えないままずぶ濡れになって、自分の思い上がりに気づけばいいんだわ。」
何か吹っ切れたかのようにフローリアは言うが、マメルクスからすればそんなものは一人の母親の個人的な感情の問題でしかない。
「余はミルフ殿ならば役目を果たしてくれると期待して、彼の
もしも雨ごときで役目に支障が出るようでは困るのですが?」
「あら、それはさすがに大丈夫ですよ
やんわりと釘を刺すマメルクスにフローリアは心外だと言わんばかりに反発する。
「ルーディはちゃんとサウマンディウムまで行ってくれますよ?
それは私が保障しますわ。
でも、ルーディはそれ以上のことをやってみせようとしてましたの。」
「それ以上?」
「サウマンディウムまでなら一週間程度で着いてくれればいい……私、あの子にそう言いましたのよ?
でもあの子ったら半分の三日でたどり着くつもりでいましたの!」
「三日!?」
マメルクスはあえて驚いた様子を見せた。もちろん、レーマの誇る
「あの子ったら私が言った以上に早くサウマンディウムに行って、自分の実力を認めさせたいのよ。
私があの子の実力を低く見ていると思ってるんだわ。
でも逆よ。
私に言わせれば、あの子が世間を知らなすぎるんです。世の中をなめてるんだわ。」
フローリアの口調は怒っているという風ではなく、困っているという風だった。
「それで実際に早く着いてくれるなら余としてはむしろありがたいのですが?」
「それは、そうでしょうけど……」
どうやらフローリアはマメルクスが自分に同情してくれると思っていたらしい。だが逆のことを言われ、フローリアは小さなショックを受けたように身体を起こし、口を尖らせる。
「でもそれで万事がうまく行きすぎて、あの子に調子に乗られても困るんです。」
「ですが遅れられるのはもっと困ります。
そうではありませんか、
「それは大丈夫ですよ!
私、
スクワラはオリエネシアでは降るけど、サウマンディアじゃ滅多にないそうじゃありませんか。」
目を背けて拗ねるように苛立ちを見せるフローリアにマメルクスが窘めると、フローリアは今度はマメルクスに向き直り、「何を馬鹿なことを」とでも言わんばかりに胸を張った。……もう、成功してほしいんだか失敗してほしいんだか分からない。マメルクスとしては呆れるほかはない。
「それなら、良いのですがね……」
マメルクスはため息交じりにそう答えた。
一応、マメルクスはマメルクスで報告を受け取ったこと、そして支援はするので降臨者の接遇をしっかりするようにという指示を伝える手紙を
それでも、噂と言う形で降臨が起きたという事実がムセイオンの
「それはそうと
マメルクスの態度が面白くないフローリアはマメルクスをジトッとした目で睨みながら言った。
「こうなればサウマンディアの様子も聞かせていただきたいものね。
道のりだけならあの奴隷でも良くても、あの奴隷はサウマンディアの事情は知らないようでしたもの。」
役目を果たさねばならないのは自分たちだけではない……そう釘を刺すようにフローリアはマメルクスに要求する。それに対するマメルクスの答えは
「もちろんです。
が、そうは言ってもオリエネシアより南はレーマにとっても辺境でしてな。
ちょうど
「別に
「
このマメルクスの説明に
が、同時に現在自分に
「あっ、あのっ、失礼いたします!」
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