第1166話 クレーエの話(2)
統一歴九十九年五月十日、午後 ‐ 『
だがクレーエには『勇者団』の事情など分からない。多少は聞いているがファドによってあえて
「強さはそれほど問題じゃない。
属性の相性さ。」
「
闇属性のモンスターには全部の属性魔法が効くけど、光属性が特効だ。」
「ガーゴイルって
「違うぞ。見た目は似てるけど
「
「ガーゴイルは闇属性じゃない。たしか地属性だ。」
「なるほど、属性が違うなら別のモンスターだな。」
「えー、オホン」
クレーエを置いてけぼりにして盛り上がる少年たちにクレーエは苛立ちを隠しながら咳ばらいをして割り込んだ。
「アタシの話を続けたいんですが、よろしいですかね?」
四人は一斉にクレーエの顔を見上げる。中には不快そうな表情を見せる者もいたが、ティフは仲間たちとの談話で盛り上がってる最中に一度はテーブルに置いた金の
「いいぞ、邪魔して悪かったな。
お前の話を理解するためにもここである程度情報を共有しておきたかったんだ。」
そう言うと再び歯の掃除を再開する。クレーエは「
「アタシらはこの山荘に居たんですが、《
クレーエが楊枝を動かすのを止め、目だけをクレーエに向ける。他の三人も声には出さないが「へー」と感心する風に目を大きくしたり背筋を伸びあがらせる。
「アタシは盗賊どもを率いて《
アタシらがたどり着いた時にはもうお二人はだいぶ追い詰められたような状態でして、森ン中から現れたアタシらに気づいて間道から外れてアタシらのいる方へ逃げて来なすったんです。」
「待て」
デファーグが片手の手の平をテーブルに置き、椅子に座ったままだが半身をクレーエの方へ向けて話に割り込んできた。
「ペイトウィンは手練れだ。
魔法の名手だぞ。
そのペイトウィンが
それとも戦いを避けて逃げて来ていたのか?」
「
ペイトウィンを臆病者呼ばわりしているようにも聞こえるデファーグの質問を不味いと思ったのかスワッグが制止する。が、デファーグが
「デファーグ、ペイトウィンはああいう性格だが、戦わずに逃げる様な奴じゃない。」
「それは普通の状況ならだろ?
今回はエイーを連れていた。
何かを守りながら逃げなければならないとなると全力を発揮できなくなることはよくあることだ。
それでエイーの安全を優先して戦いを避けたのかもしれない。
俺が言ってるのはそう言うことだ。」
デファーグがそう言うと四人は一斉にクレーエを見た。その視線が「どうなんだ?」と問いかけている。クレーエは口元を少しゆがめ、首を左右に小さく振ってから答えた。
「
この山荘からもその炎が見えていたくらいですとも。
四人は一斉にうめき声を漏らしながら肩を落とした。スワッグはそれから責めるようにデファーグに視線を向ける。
たしかに彼らはここに来る前に魔法戦が行われた痕跡を見つけていた。それを発見したのはスワッグだった。スワッグはすぐにそれを魔法戦の痕だと断定し報告したが、その時もスワッグの分析に最後まで疑問を抱いていたのがデファーグだった。そしてここへ来てペイトウィンを疑う言説……スワッグにペイトウィンに対する特別な感情があったわけではなかったが、それでもスワッグとしては面白くなかったのだろう。そんなスワッグのデファーグに対する視線に気づいたティフはクレーエに話の先を促した。
「それで、その後はどうなったんだ?」
「え!? ええ、
「待て、お前はそのグルグリウスって奴の姿を見たんだな?」
デファーグが再び話を中断させる。
「え!? ええ、そりゃ見ましたとも。
お話だってしましたよ。」
「「「話した!?」」」
再び四人全員が食いついた。話を続けたいクレーエとしては困るが、かといって見た目通りの少年ではない彼らを𠮟りつけるわけにもいかず狼狽えてしまう。
「あ、はい、ですがそれはもっと後のことで……
その、順を追って話しやすんで……」
両手を広げて諫めようとするクレーエに四人が四人とも喉で何か呻くように唸り、残念そうに銘々の席に腰を落ち着けなおした。四人が落ち着きを取り戻すのを見てクレーエは自分の喉元をボリボリ掻くと、話しにくそうに続ける。
「アタシらぁ先に逃げて来た
アタシぁ
「大怪我だと!?」
「何でだ!?
グルグリウスって奴にやられたのか?」
「それよりもエイーが助けに戻ったってことは
再び食いつく少年たちにクレーエはだんだん疲れて来た。
話が……進まねぇ……
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