ルクレティアの出立
第344話 女たちの宴
統一歴九十九年五月一日、夕 - マニウス要塞陣営本部/アルトリウシア
ルクレティアが
ルキウスが去った陣営本部では、リュウイチから魔導具を受け取ったルクレティアが早速身に着けてその威力や機能を確認し、見守るカールや侍女や奴隷たちを驚かせていた。
リュウイチが召喚したのに比べれば一回りも二回りも小さいがコボルトの戦士くらいはありそうなマッド・ゴーレムや
ルクレティアは常人よりも優れているとはいえ
だが、人間の生命エネルギーそのものである魔力は枯渇すれば即座に死に至る。訓練を積んだ
だが、リュウイチの魔導具を使えば、術者の自己防衛本能による抑制という制約を受けない。しかも、消費した魔力は随時『魔力共有指輪』で補充されるので、ルクレティアは自身が有する魔力のほとんどすべてを魔法行使に使えるようになっていた。
おまけに低位魔法とはいっても
興奮と感動の半日はあっという間に過ぎ、日は早くも傾いて
男性陣は人数の多さもあって賑やかなのはいつものことであったが、今日はルクレティアが魔導具を貰えたお祝い気分のせいで、女性陣はたったの三人しかいないにも関わらず大いに盛り上がっている。
「良かったじゃないさぁ、ルクレティア様ぁ!?」
「ありがとうリュキスカさん」
「ホントに凄かったわ、ルクレティア。いえ、もうルクレティア様って呼ばなきゃいけないわね」
「そんな!
ヴァナディーズ先生はまだ私の先生なんですから、これからもルクレティアと呼んでください!」
ルクレティアにとっては手が届きそうだった
リュキスカはルクレティアの代わりにリュウイチの
ヴァナディーズに至ってはもっと深刻だった。彼女はムセイオンから来た学士だが、ルクレティアの家庭教師をする代わりにアルビオンニアでの学術調査や研究の支援をしてもらう契約を、ルクレティアの父であるルクレティウス・スパルタカシウスと結んでいるのだ。ルクレティアの身に何かあったら……極端な話、ルクレティアが失意のあまり自殺でもしようものなら、彼女はアルビオンニアでの調査活動を諦めてムセイオンに帰らざるを得なくなってしまう。
今はカールの家庭教師もやっているが、それもカールが
だが、それらの不安もルキウスが条件付きとはいえ魔導具を受け取ることを認めたおかげで一挙に解消した。三人とも万々歳というわけだ。緊張が一気に弛緩した分、ハメも外れようというものである。
「いやホント大したもんだよ。
治癒魔法に浄化魔法なんて、まさに聖女様そのものじゃないさ!?」
「ええ、でも、魔法を使えばその分リュウイチ様から頂戴するわけだし、あんまり調子に乗るわけにはいかないわ。」
「いいじゃないさ!
リュウイチ様は
それにあの《
ご本人が言うにゃ大魔法だってバンバン使えちまうそうじゃないさ。ルクレティア様がどんだけ魔法使ったところでケチケチ文句言ったりするもんかい」
リュキスカが機嫌よさそうに笑うと、ヴァナディーズが割り込むように質問をあびせてくる。
「それで、実際のところどんな感じなの?
魔力を使ったら、その指輪を通じてリュウイチ様の魔力を戴くんでしょ?」
「え!? ええ……」
二人の視線が左手に集まっていることに気付いたルクレティアは、自分でもその指輪に視線を落とし、それからウットリするような表情としぐさで左手を胸の前に持ってくると、右手でやさしく包み目を閉じた。
「なんかぁ……魔導具を使うと、それに魔力を一気に吸われる感じがするんだけどぉ、すぐにこの指輪を中心に左手全体がポォーッて温かくなってぇ……なんだかリュウイチ様の御力が私の中に流れ込んでくるみたいなぁ…」
「「きゃ~~~~」」
二人が
「この指輪を通じてリュウイチ様と繋がってるんだって、すごく感じるの」
右手の薬指には《
これでリュウイチ様と繋がっている……そう考えると自然とうれしさがこみ上げてきて胸がドキドキしてくる。
ルクレティアはその両手をギュッと握りしめ、二つの拳を胸に抱いて目を閉じ身を捩り始める。
「ああ~ん、もう絶対離さない!!」
その様子を決して呆れることなく、むしろ素直に喜ばしく思いながら二人は小声で話し出す。
「いやぁ、
「あら、そこは新妻というべきでは無くて?」
「何だろうねぇ、見てるコッチが嬉しくなってきちまうよ」
「
「そうだけどさぁ、なんていうかアタシらからするとスパルタカシア様って言えばこう、清純っていうか生真面目っていうか、雲の上の人って感じだったからさぁ。
意外と普通に女の子なんだなって思ってさ」
「あら、彼女私と二人きりのときはこんな感じよ。幻滅した?」
「そんなことないよぉ! むしろちょっと安心した」
「このまま順調に行くといいわねぇ」
「行くに決まってるじゃないさ!
そうじゃないとアタイ困るよ、ねぇフェリキシムスぅ~」
「そうだ!」
一人の世界に没入していたルクレティアだったが、いつの間にか聞こえ始めていた二人の会話に大事なことを思い出す。
「何!?」
「どしたんだい、いきなり」
「リュキスカさん……その、実は……」
ルクレティアはリュキスカに向き合い、それまでの弛緩した態度を改める…が、言いづらそうに口ごもる。その態度にヴァナディーズはルクレティアが何を言おうとしているのか察し、ヴァナディーズもまた姿勢を少し正して口元を拭った。
「何だい改まっちゃってさぁ?」
「わ、私、実は、リュウイチ様と
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