第199話 説得
統一歴九十九年四月十七日、夕 - マニウス要塞陣営本部・応接室/アルトリウシア
ルキウスとしては、リュウイチの御傍には身近な誰かに付いていて欲しい。あまりにも強大すぎて力ではどうにも制御できず、また財産も膨大すぎて物欲でも制御できず、同時に酒や麻薬なども効きそうにない降臨者 《
そして、実際に近辺に送り込むことができていて、なおかつ以前から交流のあるルクレティアはルキウスにとって最善にして唯一のカードなのだ。たかが娼婦一人が現れたくらいで挫折されてはたまったものではない。
ルクレティア自身にとっては個人的な憧れが成就するかどうかという問題にすぎないにしても、ルキウスにとっては所領の、ひいては
ルキウスはまずルクレティアに挫折から立ち直ってもらい、その役目を果たしてもらわなければならないのだった。
「でも・・・
「ん、んん・・・だからそれは
「娼婦でも、降臨者様のお手が付いた以上は聖女として扱うのでしょう?」
手が付いた以上、降臨者の子を産むかもしれない。
降臨者の血を引く子供は一様に強い魔力と
鉄、ガラス、陶磁器・・・そうしたモノを生産するために必要な強力な炎を使おうとすると、その炎に《
現在、世界各地に存在する
だから
そんな世界であるからこそ、血の濃い
それが今回は強大無比な《
「ん・・・まあ、な・・・」
ルキウスは否定する事が出来なかった。
「
リディアはルクレティアの先祖であり、降臨者スパルタカスに娶られた聖女である。メデナも降臨者スパルタカスに仕えた聖女であり、当初は最も最初にスパルタカスに巫女として仕え、お手が付いて一番最初に聖女となった女性だ。しかしその後、巫女として仕えたリディアにスパルタカスの心が移り、お手が付いてメデナと同じくリディアも聖女となる。以後、二人はライバル関係になり、リディアが少女漫画や乙女ゲーのヒロインなら、メデナは悪役令嬢のような位置づけになった。
メデナは決して悪女だったわけではないが、真面目過ぎたためにスパルタカスの身の回りの世話を焼く者たちにキツく当たりすぎるところがあった。そんなメデナからスパルタカスの心がやがて離れていく。焦るメデナは後から聖女となって男の子を出産したリディアに嫉妬し、対立し、あろうことか暗殺を企てて逆に殺されてしまったと言い伝えられている。
実際は事故死だったとも病死だったとも伝えられるが、降臨者スパルタカスの愛を得ようとして得られなかった不幸な女性として言い伝えられている点では変わりない。
ルキウスは溜息をついた。
「ルクレティア、それは違うよ。
先に巫女として仕えたのは確かに
先にお手が付いた方がメデナ様だというのなら、
一人しか聖女になれないというわけでもないし、チャンスはまだある。」
「でも、
私の何が至らないのかしら・・・」
ルキウスは
「ルクレティア、
ルクレティアを巫女としてどうですか?・・・とね。」
先ほどまでうつむいていたルクレティアが顔をあげる。
「悪い子じゃないとは言っていたよ。
その言い様からは、
ただ、若すぎると言っておられた。」
ルクレティアはいつの間にか丸めてしまっていた身体を伸ばし、訴えかけるように言った。
「わ、私は確かにまだ十五ですが、もうすぐ十六ですよ!?」
レーマ帝国では一般的に十六歳で成人とされ、レーマ貴族の娘は十五歳の内に結婚相手を決めて十六歳の内には結婚してしまうのが慣例だった、実はルクレティアもいくつか縁談を抱えている身だ。
「知っているとも、
「なら、どうして!?」
「リュウイチ様の御国では、成人年齢は十八歳らしい。
そして、十八に満たない娘に手を出すと罰せられる法律があるのだそうだ。」
ルキウスの説明にルクレティアは愕然とした。
「こ、ここは《レアル》ではありません。《レアル》の法に従わなくても・・・」
ルクレティアの予想通りの反応にルキウスは優しく微笑みながら
「生まれ育った慣習から外れる事は、なかなか抵抗があるものなのだろうよ。」
「そんな・・・」
手を付けてもらえない理由は分かった。だが、それは十八まで待たねばならないという事でもある。あと二年・・・あの娼婦には手が付けられているのに、自分は二年もの間、待ち続けなければならない。
そんなに待っていたら、他の女たちに更に横入りされていくであろうことは目に見えている。チャンスが無くなったわけでは無いというのは確かにそうだが、だが同時にチャンスがとてつもなく遠いところにあると知らされたような気になった。苦労して登った山の頂で、ホントのゴールはあっちだよと地平線にポツンと見える山を
「ルクレティア、よくお聞き。
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