第1415話 ゴルディアヌスの窮地
統一歴九十九年五月十二日・午後 ‐
五分後、リュウイチは普段居間代わりにしている
『アウィトゥスはどうしたんだ?』
誰が居ないのか気づいたリュウイチが尋ねると、ネロ以外の奴隷たちは互いに顔を見合った。
「さぁ……アイツ、今朝から見てません」
「
「今日はアイツが休みなんじゃなかったっけ?」
リュウイチは奴隷たちに順番に休日を取るように命じていた。どうやら今日が休日なのはアウィトゥスだったようだ。
『アウィトゥスは休みの日は何をしてるんだ?』
「さぁ……ブラブラしてるみたいですけど……」
「
「いや、アイツそんなに金ねぇぞ?」
『外に出たとかじゃ無けりゃいいんだけど……』
「それはあり得ません
「いくら俺たちだって
「俺らが
アウィトゥスなんかが出ようとしたってすぐに捕まっちまいますよ」
ふーん……リュウイチは気の無い返事をしつつ、背もたれに背を預けた。室内にいるのはネロ、ロムルス、そしてゴルディアヌス……三人はリュウイチの関心がアウィトゥスから離れたのを敏感に察知した。
『まぁいいか、問題を起こさなければ自由にしていいと言ったのは私だしね』
ネロが淹れた香茶をリュウイチの前に差し出すと、リュウイチは小さく『ありがと』と礼を言った。
『さて、手早く話を済ませようか。
《
ゴルディアヌスは悪戯がバレた少年のように叱られるのを覚悟し、ゴクリと喉を鳴らして身を縮こませた。
『《
リュウイチの呼びかけで室内に一瞬旋風が巻き起こり、リュウイチの目の前に《風の精霊》が姿を現した。何度見ても肉眼では見えづらい。特にこのような薄暗い屋内では猶更だ。
『これから彼らと話をする。
君も交えて……だからこれから彼らにも聞こえるように話せ』
『
リュウイチが命じると全員の頭の中に《風の精霊》の神妙な声が響くと、これから始まることを想像して全員が緊張も新たに姿勢を正した。リュウイチはその雰囲気にのまれたのか、無意識に脚を組む。
『さて、さっき言ってた、えーっと……トラキラだっけ?』
ド忘れしたリュウイチが名前を間違えると、ゴルディアヌスが上ずった声で訂正する。
「ト、トルキラ様です、
『そう、そのトルキラというのは何者なんだ?』
リュウイチにとってそれは聞き覚えの薄い名前だった。しかし、念話が使えなかった筈のゴルディアヌスが念話を使って会話していた。しかもその会話の中で出ていた名前なのだからリュウイチとしては無関心ではいられない。念話を使えなかった筈のゴルディアヌスが念話が使えるようになっていたということは、ほぼ間違いなく
「よ、妖精、です」
『妖精?』
ますます納得できない答えにリュウイチは思わず顔を歪める。本人に咎めるつもりはないが、しかし後ろめたいことを抱えたゴルディアヌスには、リュウイチがゴルディアヌスを詰問しようとしているように感じられた。だが普段から
「は、はいっ!
《
ゴルディアヌスのヤケクソのような答えにリュウイチは呆れ、目を閉じ眉間を揉みながら溜息をついた。
『何で!?
何のために???』
声量も声色も抑制が利かされていはいたが、普段温厚なリュウイチがこうも
しばらく待ってみても応えないゴルディアスにリュウイチは眉間を揉むのをやめ、手を降ろし目を開けた。リュウイチは目の前に立つゴルディアヌスはいつもより一回り小さく見える。その時の違和感にリュウイチが
……やっちまったか?
ゴルディアヌスは
奴隷たちの異様な雰囲気に今更ながら気づいたリュウイチは、同時に自分がそれだけ彼らに恐れられているのだと初めて自覚した。
……上司は溜息一つこぼすだけでもパワハラになるっていうもんな……
リュウイチは右手を再び額に当て、広げた指で左右のこめかみを揉みこんだ。
こんなことは望んでいなかった筈だ。リュウイチは自分の
『《
リュウイチはひとまず質問する相手をゴルディアヌスから《風の精霊》に切り替えることにした。
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