第1250話 一人のデザート
統一歴九十九年五月十一日、晩 ‐
「もういい!
これは下げてくれ!」
ペイトウィンは
しかし既にお腹いっぱいなのかというとそういうわけでもないのは確かなようだ。食べ盛りの少年という見た目通りの
次はデザートだ。グルグリウスは給仕に向かって指を鳴らした。人間みたいにパチンという音はしない。カツンという硬質な、どちらかというと低い音だ。彼が只の人間ではなく、生物ですらなく、人間のように見える外観とは異なり岩石の身体を持っていることがその妙な音の理由だ。
グルグリウスの合図で給仕がデザートを運び込む。やはり銀の器に盛られているのはリンゴとブドウのコンポートのヨーグルト
早速、デザート用の銀のスプーンを使って一
「ん~~~……」
まんざらでもない……ペイトウィンの表情を言葉に替えるならそうなるだろう。その様子に給仕たちは胸を撫でおろし、グルグリウスはヤレヤレと呆れを噛み殺した。
ペイトウィンはそのままの勢いで二口、三口とデザートを口へ運び入れ、一分と経たないうちにその全てを平らげてしまった。最後はスプーンで器の内側にこびりついたヨーグルトとソースを削ぎ落とすように掻き集めるような真似までしている。
「御満足ですか?」
食べ終わったペイトウィンがスプーンを投げ出すように置くと、グルグリウスが尋ねた。ペイトウィンは一瞬、その声に不快そうに頬を動かしたものの、機嫌はさほど悪くなさそうに答える。
「うむ。
悪くなかったぞ、料理はな。」
「おや、ではデザートがお気に召しませんでしたか?」
ペイトウィンが言おうとしている嫌味を察しながらもグルグリウスはワザと話題をずらし、とぼけて見せた。
「いや、デザートも良かった」
「では飲み物が?」
「
出されたものはみんなよかった」
「おお、それはようございました」
グルグリウスが芝居がかった様子で喜んでみせると、ペイトウィンはジトっとした目でグルグリウスを睨む。
「気に入らなかったのは料理以外さ。
予想通りのペイトウィンの苦言にグルグリウスは両眉をあげ、苦笑いを返す。
「だいたい公務って何だ?
こんな山の上の砦で、
この砦や周辺のことは管轄外なんじゃないのか!?」
「
「俺はハーフエルフだぞ!?
高貴を極める聖貴族だ。
その聖貴族に一人で食事をさせるなんて、無礼にもほどがあるだろ」
「お一人でお食事をなされるのが嫌だったのですか?」
ブツクサと愚痴を溢すペイトウィンにグルグリウスがとぼけた様子で尋ねると、ペイトウィンは何か揚げ足を取られると察したのか一瞬口をへの字に結び、それから背を反らせた。
「違う!
一人で食事を摂るのが嫌だったんじゃない。
一人で食事を摂らされるのが気に入らないんだ!」
「おや、では次から
バンッ!……グルグリウスの冗談にペイトウィンはテーブルを叩いた。
「ふざけるな!
何で俺がお前なんかと一緒に食事を摂らなきゃいけないんだ!?
だいたいお前、食事なんか必要ないだろ!!」
グルグリウスはニヤリと片方の口角を釣り上げる。
「食事は必要ありませんが食事を摂ることは出来ます。
貴方様の御食事のお相手をするくらい、
「要らん!!」
ペイトウィンは顔を背け、腕組みして吐き捨てるように言った。
「御馳走を食べるのは文化的な行為なんだ。
ただ動物が餌を食べるのとは違うんだぞ!?
人間同士で同じ物を食べるから意味があるのに、人間じゃないお前と一緒に食べて何の価値があるというんだ?」
「それは残念」
グルグリウスは困ったように小首を傾げ、片眉をあげて苦笑いを浮かべる。
「しかし、今度からは御一人ではなくなるかもしれませんよ?」
思わせぶりな言葉に、ペイトウィンは再びグルグリウスを睨みつけた。
「どういうことだ?」
「
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