第916話 暗夜に待ち構える者
統一歴九十九年五月九日、深夜 ‐ ブルグトアドルフ近郊/アルビオンニウム
普通、人間は大なり小なり集団を作り、集まって生活する。人同士が寄り
社会基盤のない環境での生活は過酷を極める。飲み水を確保するだけでも多大な労力を要し、更に食料を確保し、それらを安全に食べられるように料理しようとすればそれだけのために毎日数時間もの時間を費やさねばならない。ほとんどの人は一日の大半を、自分が生きるただそれだけのための活動に当てなければならないだろう。そしてそういう余裕のない生活はどうしたところで生活の質を低下させざるを得ない。清潔を保ち続けるのは困難になり、不衛生な生活環境は活力を低下させ、時に感染症や食中毒といった病気をも
しかしそうした作業を分担することが出来れば、生活は格段に良くなる。人間には誰だって得手不得手があるのだ。食料を得ることに長けた者も居れば苦手な者も居る。洗濯や掃除といった衛生環境を維持する活動が得意な者も居れば不得手な者も居る。そうした個々の作業を得意な人、長けた人に任せ、互いの苦手な部分を補い合うことが出来れば、生活するというただそれだけのために要する労力は大きく減少するだろう。だからこそ人々は互いに寄り合い、支え合って生きていく。地域社会とはそのために存在している。
にもかかわらず、地域社会から外れての生活を余儀なくされる者はどんな時代、どんな世界にも存在した。皮なめし職人や羊毛の
上を見上げれば天井など無くて、剥き出しになった屋根裏は屋内で焚いた焚火の煙で真っ黒に
が、ペイトウィンたちが向かっている先にある建物は例外中の例外といって良い優良物件だった。
それはブルグトアドルフの街から一時間ばかりの距離にあり、周囲を森に囲まれた小高い丘の上にあった。街までの道も比較的整備されており、石畳とまではいかないが馬車が通るのに支障がない程度に整えられている。
建物もちゃんとしており、敷地は全体が
一階に大きな
それはかつてとある
貴族の山荘ではあったが現在ではもちろん使われていない。山荘の持ち主は現在遠く離れたクプファーハーフェンに居住しており、山荘には建物を維持管理するための使用人一家が住み込んでいたのだが、一昨年の火山災害でアルビオンニウムが放棄されて以来退去しており、現在ではたまにブルグトアドルフから
その山荘の鍵を『勇者団』は支援者から入手し、拠点として使っていた。山荘は火山性地震の影響でところどころ傷んでおり、一部の壁にヒビが入って
ともあれ、そこまで行けばクレーエが逃げ散った盗賊団の生き残りを集めて待っている筈である。このどうしようもなく暗くて寒い森を抜け、そこへたどり着くことができれば、疲れを癒すには格好の快適な空間が約束されている筈だった。
「!!……何だ!?」
ハーフエルフらしい
「な、なんですホエールキング様!?」
「シッ、何かいる!」
驚いて声を上げたエイーをペイトウィンは𠮟りつけるように黙らせた。その声は明確に警戒の色に染まっていた。
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