第290話 マルクス出港
統一歴九十九年四月二十五日、午前 - セーヘイム/アルトリウシア
船は来た時と同じ『スノッリ』号であり、来た時はリュウイチやアルトリウシア貴族らへの贈り物を満載していたが、今回はアルトリウシア貴族からプブリウスをはじめとするサウマンディア貴族への贈り物を満載している。このままトゥーレスタッドまで送ってもらい、そこで待っているはずのサウマンディアのスループ艦に乗り換えて帰還する予定だ。今日は風が良いそうなので、今日の日没までにはサウマンディウスに入港できるだろう。
マルクスがプブリウスから課せられた任務はおおむね達成できた。アルトリウシア貴族から受け取ったこの多数の土産物が無かったとしても、プブリウスを満足させる報告ができそうだ。
1.アルトリウシアの現状把握。
2.特にアルトリウシアと
3.《
4.アルトリウシアと
5.《
6.サウマンディウム~アルトリウシア間の連絡体制強化。
7.上記を達するため
8.《
マルクスが今回の派遣でプブリウスから課せられた任務は以上である。
多数の領民を殺されたアルトリウシアがエッケ島攻略に乗り出す可能性は決して低くはない。「ローマは剣でお返しする」…《レアル》古代ローマから引き継いだ雄々しき気風はレーマ帝国で今も息づいている。それはアルトリウシアを治めるアヴァロニウス氏族も同じだ。手の届くところに憎き仇がいて手を出さないでいると期待するのは難しい。
だが、あんなところで戦闘をするのは、火薬庫の前で火遊びをするようなものだ。今、アルトリウシアにはかの伝説の
そうなったら世界の破滅だ。
プブリウスの息子カエソーや
サウマンディアはアルトリウシアからそれほど離れていない。むしろ近い。アルトリウシアで《
幸い、降臨した《
《
そのマルクスが見たところ、アルトリウシアで戦闘が生起する可能性は低い。領民を多数殺され、
まずアルトリウシア側はエッケ島攻略に必要な兵力を抽出できない。動員可能な総兵力はエッケ島攻略に十分なものではあるが、それを動員すればアルトリウシアの復旧復興事業に致命的な影響が生じてしまう。エルネスティーネもルキウスもどちらも領民が冬を越せるように十分な住居を用意することを最優先で考えているため、冬までは大規模な軍事行動は起こしえない。そして、冬になったら今度は寒さと雪と風と波のため、エッケ島への上陸作戦は困難になる。仮にまかり間違ってエッケ島攻略の方を優先することになったとしても、十分な兵力をエッケ島に送り込むための船を用意できない。ゆえに、少なくとも春が来るまではアルトリウシア側からエッケ島へ攻撃を仕掛けることはありえない。
そして、
まともにぶつかれば一日待たずに全滅することは必至だ。
そして、何よりも彼らの『バランベル』号は航行能力を喪失している。泳ぎのできないハン族はエッケ島から出ることができなくなってしまっているのだ。
双方ともに積極的な攻勢に出れない以上、両者の間で戦闘が生起する可能性は無い。その事実が判明した時点で、マルクスの任務は半分完了した。
一応 《
今は将来 《
招待したプブリウスの面目は保たれているし、将来サウマンディウムを訪れる可能性があることも確認された…それは布石を置けたという成果を残したと言って良い。
連絡体制の強化についてはサウマンディア側の要求がほぼ丸ごと受け入れられた。ティトゥス街道を再開通させ、街道沿いの
現状ではサウマンディア~アルトリウシア間の通信は伝書鳩と伝令に頼っている。伝書鳩は早いがそれでも半日~一日の時間が必要で、おまけに一度に送れる情報量は限られている。しかも、途中で猛禽類等の天敵に襲われる危険性もある。そして伝書鳩は数に限りがあるし、通信を送れば船を使って代わりの伝書鳩を再び送ってもらわなければならない。鳩の帰巣本能を利用する伝書鳩の通信は発信地点は自由でも、受け手の位置は一か所(その鳩の巣のあるところ)限定の一方通行の通信手段だからだ。
伝令は船で行き来するしかなく、潮と風の関係でアルトリウシア側からサウマンディウムへは一~二日で行けるが、サウマンディウム側からアルトリウシアへは二日以上はかかる。しかもそれは天候に恵まれた場合の話で、季節や気象条件によっては数日足止めを食らう事も珍しくない。
しかし、ティトゥス街道が再開通し、街道沿いにある
《
何せ《
サウマンディアはアルトリウシアに近く、しかも《
エルネスティーネはリュキスカについてもプブリウスに報告はしていたが、その報告がプブリウスの許に届く前にマルクスはアルトリウシアへ向けて出発してしまった。ちょうど入れ違いになってしまったため、マルクスはリュキスカについて知らなかったが、一昨日 《
《
この情報はマルクスにとってプブリウスに対する最大のお土産になるに違いない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます