第351話 秘密の共有
統一歴九十九年五月二日、昼 - マニウス要塞陣営本部/アルトリウシア
「なんなのよ、もうっ!?」
ポーチを受け取った後、ルクレティアは尚もローブが皴になるとか入るわけないとか言って渋っていたが、リウィウスが「ちょっとこちらへ」と
「
「いやよ!入るわけないじゃないの!
無理に入れたら皴になっちゃうわ!!」
「大丈夫ですよ。そうだ!じゃあそっちの
「アナタ気は確か!?
入るわけないじゃない!!」
ルクレティアが与えられた
対してポーチは幅が六インチ(約十五センチ)、厚さ四インチ(約十センチ)、深さは八インチ(約二十センチ)ほどしかない。深さの倍ほどもある
どうやらルクレティアは感情的になってしまっていて素直に言うことを聞いてくれそうにないと気づいたリウィウスは困り顔でヘヘッと少し笑い頭を掻いた。ルクレティアは背筋を伸ばし、腕組みしてツンと視線を逸らす。
「ド、奥方様、分かってると思いやすが、この事ぁ他言無用に願いやすよ?」
「何よ?」
リウィウスのもったいぶった物言いに興味を惹かれたのか、ルクレティアは目だけを動かしてリウィウスを見下ろした。
「アッシらも奥方様と同じ
リウィウスは背を反らせて腰に付けたポーチを見せつけた。
「それがどうしたのよ?」
「旦那様にはほかにも戴やした。
憶えておいでですか、アッシらが旦那様に戴いた武具や防具を?」
「憶えてるわよ…あ、そう言えばアナタたち、私の護衛だって言う割に武器はどうしたの!?」
リウィウスは
「へっへっへ、そいつを今お見せしやすよ。」
リウィウスは悪戯っぽく笑うと腰のポーチの蓋を開けて手を突っ込み、そしてもったいぶったようにゆっくりと引き抜いた。
「ああ!?」
リウィウスの手にはリュウイチから貰った
「アナタ、それまさか!?」
「シーッ!!」
思わず大きな声をあげるルクレティアにリウィウスは口に人差し指を当てて静かにするようジェスチャーし、チラっと部屋の入口の方を見る。中庭ではまだ他の者たちが突っ立って待っているが、ルクレティアの声に気付いた様子はない。
「お察しの通りでさぁ、コイツは
だからホレ、アッシらぁ旦那様からお預かりしたポーションもこの通り。」
リウィウスはポーチの中からポーションの小瓶を取り出して見せた。
「ア、アナタ分かってるの、コレは「シーッ!」うむっ!?」
ルクレティアが大声を上げそうになり、リウィウスは慌てて人差し指をルクレティアの口に当てて黙らせる。ルクレティアは一旦口を
「アナタ分かってるの、コレは
今度は声を押し殺して問い詰める。
「百も承知でさぁ。
だがアッシらも最初受け取ったときはコイツが魔導具だなんてわかんなかったんで。」
「分からなかったとしても、後ででも気づいたなら言うべきでしょ!?
アナタたちだって魔導具は渡さないってリュウイチ様がお約束したのを見てたじゃない!」
「まぁまぁ、コレは魔導具かもしれねぇが武器や防具じゃござんせん。」
リュウイチが魔導具を渡さないと約束したのは、リウィウスら奴隷たちに武器や防具を与えていいかどうかという話をしている時のことだ。だから、あの時約束した「魔導具を渡さない」は武器や防具の事であって、武器や防具以外の魔導具は約束の対象ではない…リウィウスはそう解釈して見せているわけだ。
たしかに武器や防具以外のすべての魔導具について言及した記憶はルクレティアにもない。だが、そんな言い訳が通用するとは思えない。
「そんな言い訳、通用するわけないでしょ!?」
本気で怒っているらしいルクレティアの剣幕に
「アッシらぁ旦那様の
「くっ…」
奴隷は人間ではなく、人間のカタチをした道具である。そして、その道具である奴隷に主人は自らの財産を分け与えて「これで金を稼げ」と命じることは珍しいことではなかった。そうして与えられる財産を
大協約は《レアル》の
「こ、このことは他に誰か知ってるの!?」
急に怒気の弱まったルクレティアの様子に内心で胸をなでおろしつつリウィウスはわずかに口角を上げて答えた。
「まだ誰も…アッシら以外では奥方様に初めてご報告申し上げやした。」
リウィウスはネロが既にアルトリウスに報告していることを知らなかった。ネロの報告は無かったことにされたし、ネロ自身も他に誰にも言っていない。
「ほ、報告はすべきだわ。いくら何でも…これは…」
「それはお任せいたしやす。
アッシらは奴隷としての
どうやら罰せられる心配はないと確信したリウィウスは自信を取り戻す。
「ですが、考えてみてくだせぇ。
コイツを
旅すんのにこれほどイイ
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