第274話 またもや途中リタイヤしたカール
統一歴九十九年四月二十二日、晩 - マニウス要塞陣営本部/アルトリウシア
そうなると正式に参加できる人数は限られてくる。せいぜい十数人程度、多くても三十人には届かない範囲に収めざるを得ないだろう。では何故、そんなに広い
答えは二つ。
一つは正式な招待客以外の参加者の存在に対応するためだ。レーマでは
もう一つは、そうした
ともかく、そうした背景から広さの割に収容人数の小さい
このため、女性のエルネスティーネがメインホストであるにもかかわらず、レーマの伝統に則って
リュウイチをはじめとする男たちだけが集まってやっている
リュキスカはホントは出席したくなかった。出席者はみんな
あまりにも身分が違い過ぎる女性たちに囲まれて居心地がいいわけがない。絶対にろくなことにならない…そういう確信があった。だから最初は赤ん坊への授乳を理由に断ろうとしたのだが、「女だけだから大丈夫よ」と言われ、半ば強引に引き出されてしまっていた。女貴族たちからすれば今後、親交を持たねばならないリュキスカの人となりを知る絶好の機会であり、逃すわけにはいかなかったのだ。
実は今回、
だが、リュキスカの不安は
一つはエルネスティーネが、カールを人質にすることで
「赤ちゃん、オッパイ飲んでる!!」
「名前は何て言うの!?」
「
「
「エルザ!ディートリンデ!おしとやかになさい!
ごめんなさいね
エルネスティーネははしゃぐ娘を困り顔でたしなめた。
「いえ、こちらこそせっかくの
「仕方ありませんわよ。赤ちゃんは泣くのもオッパイ飲むのも仕事ですもの。」
子供の出来ないアンティスティアに慰められるとさすがに恐縮してしまう。
「それにしても良く飲むわね。」
「ええ、リュウイチ様に治していただく前はこんなに飲んでくれなかったんですけど・・・」
「まあ、御病気だったの?」
そのことは聞いてなかったアンティスティアが驚いて訊いてくる。
「え、ええ、母子そろって
「まあ!労咳を治していただけるなんて…さすがっ・・と・・・」
リュキスカはまだリュウイチが降臨者であることを知らない。アンティスティアはルキウスから「まだ知られないようにしろ」と念入りに命じられていた。
「?」
「ウッ…くしゅんっ!
…あ、ごめんなさい?」
「さすが降臨者様ね」と言いかけ、アンティスティアは慌てて自分の口を押え、
「いえ、お大事に…」
「ありがとう。
カール様といい、この子といい、リュウイチ様はどのような御病気でも治しておしまいになられそうね。」
「カール様はもう大丈夫なんですか?」
今回のカールの詳細について知らされていなかったリュキスカが訊くと、その場の全員の視線が一斉にカールに集まった。この
「体質の方は治らないみたい…でも、おかげさまで病気の方は治していただいたわ。」
「なんだか元気がなさそうですけど…?」
カールを呆れたような目で見ながらため息をついて答えてくれたエルネスティーネに、腑に落ちぬという様子でリュキスカが心配そうに訊くとエルネスティーネはパッと明るい表情を作ってリュキスカの方へ振り返った。
「それが聞いてくださる?
この子ったらずっと病気でベッドから動けなかったからすっかり体が弱っちゃってたの。それで病気を治してもらったら、今まで動けなくて衰えた分を取り戻すんだって、急に部屋で運動をし始めたらしいのよ。
それですっかりくたびれちゃったんですって、今日なんかミサの途中で寝ちゃうんですもの。」
「まあ、それで今も眠そうにしてらっしゃるのね?」
アンティスティアが相槌を打ち、再び全員がカールに視線を向けるとカールは口に入れたラクダ肉をクチャクチャ噛みながら目を閉じてウトウトとしていた。寝ながら食べているのだ。
「まあ、カールったら寝ながら食べてる!!」
ディートリンデの声にもカールは起きず、女たちは笑い始めた。
「クラーラ!カールが寝てしまったわ。
寝室へ運んであげて頂戴。」
クラーラが「はい、奥様」と返事をし、侍女たちの手によってカールはそのまま寝室へ運ばれていった。カールはその間も目を覚ますことなく、口に入れたラクダ肉を噛み続けていた。
「しょうのない子…ごめんなさいね、失礼しちゃって。」
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