第1254話 もう一人の魔法使い
統一歴九十九年五月十一日、晩 ‐
「閣下?」
ルクレティアの声にハッと気づくと、周囲の者たち全員の視線がカエソーに集まっていた。
「あ、ああ!?
ああ失礼!」
一人の世界に入り込んで周囲のことを忘れてしまっていたことに気づいたカエソーは素直に詫び、現時点での現状認識を説明し始めた。
「現時点で、我々が把握している
そのうち五人がハーフエルフ様、八人がヒトの
そして魔法攻撃を得意とされておられるのは既に我らの手の内にあるペイトウィン・ホエールキング様と、先ほど申しましたソファーキング・エディブルス様。
しかし、他の人物がわかりません。
魔法は脅威だ。攻撃魔法……それは今の大協約体制下のヴァーチャリア世界の軍人たちにとって最早歴史上の存在と化している。何やら火の玉やら岩や氷の弾丸が飛んでくるとは聞いている。一発一発が大砲並みの威力で、それを戦列歩兵の一斉射撃のような勢いで一人の魔法使いが放つことができるとも……しかしそれが実際にどういうものなのかは、今やムセイオンに居るごく限られた人たちを除き誰も知らない。カエソーだってセルウィウスだって知らない。強いて言うなら、リュウイチの《
あんな威力の攻撃魔法に我が軍の
レーマ軍が装備している
未知の攻撃手段……あらゆる最悪の事態を想定し、その中で最善を目指さねばならない軍人たちにとって、想定しきれない敵、想定しきれない攻撃というのは厄介極まる存在だ。そしてこの世界には実際に魔法というものが実在し、その実態も良く分かっていない。
「お、恐れ入りやす……」
口を開いたのはリウィウスだった。リュウイチがルクレティアの護衛のためにつけた奴隷の一人で、奴隷になる前はただの
「何だ、言ってみるが良い」
カエソーが発言を許すとリウィウスは改めて「恐れ入りやす」と頭を下げながら繰り返し言った。
「同じ魔法の使い手とは言っても、攻撃魔法の使い手とは限らねぇんじゃありやせんかね?
たとえばグルグリウス様が話しておられたエイー・ルメオ様も、魔法の使い手だが治癒魔法専門で、戦ごとはからっきしだってぇ話だったじゃございやせんか?」
エイー・ルメオ……治癒魔法の使い手で医学・薬学の分野ではムセイオンでの研究成果が著しい聖貴族であることは広く知られている。メークミーから得られた情報でもエイーが『勇者団』に加わっていることは明らかになっていたし、グルグリウスは『勇者団』からエイーを離脱させたいと相談も持ちかけられていた。
「
カエソーが面倒くさそうに訊き返すと、リウィウスは余計な一言を言ってしまったと後悔するように頭を掻きながら小さく頭を下げる。
「そうは申しやせんが……エイー・ルメオ様のように魔法の使い手だが攻撃魔法を使うわけじゃねぇって御方が居られたりはしねぇんですかね?」
カエソーは後ろを振り返った。その視線の先に彼の部下、
「ハッ、
このうちミシェル・ソファーキング・エディブルス様、ヘンリー・スマッグ・トムボーイ様、そしてフィリップ・エイー・ルメオ様の御三方が魔法の使い手であると思われます」
百人隊長はメークミーやナイスから聴取した情報を帰郷後に報告すべく取り纏めていたので『勇者団』の情報について、既に判明している分については淀みなく答えることができた。
「
「
百人隊長の報告を受けて残りの人物についてカエソーが立てた予想を聞き、セルウィウスが所属
「いえ、シュバルツゼーブルグで見せていただいた貴族名鑑によると
「「「エンチャンター?」」」
聞きなれない言葉に何人かが声をあげると、百人隊長は全員に聞こえるようにやや姿勢を高くして解説する。
「
魔法の力によって敵を弱体化させたり、味方を強くしたりして戦闘を優位に運べるように支援する役目の魔法使いです。
優れた
うぅ~~~む……百人隊長の解説を聞いたカエソーとセルウィウスが同時に呻いた。
なんてこった、攻撃魔法の使い手がもう一人現れるよりよっぽど厄介なんじゃないか!?
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