第1317話 大抜擢
統一歴九十九年五月十一日、夜 ‐
「「「「「リウィウス!?」」」」」
カエソーと四人の
「ア、アッシ!?」
当のリウィウスは自分に向けられた十二の瞳に気づき、思わず
どうせこの会議でリウィウスは何も意見を求められず、ルクレティアに報告するために話を聞かされているだけ……しかしそのルクレティアは今日は既に就寝しており、ルクレティアへの報告は明日にならざるを得ない。だが明日にはカエソー自身がルクレティアに報告を行うことになっており、リウィウスからルクレティアに何か報告する機会も必要もない。つまりリウィウスはこの場に居る必要すらないはずだった。当然、そこで話し合われている内容に興味なんて湧くはずもない。耳に飛び込む話も右から左へ……正直言って、途中から何が話し合われていたか全くわからなくなっていた。それなのに突然自分の名前が飛び出したのである。思わず素に返ってしまうのも当然であろう。
「い、いや、あの、じっ、自分が、で、ありますか?」
自分を見る五人の軍人たちの目に侮蔑や嫌悪の色が浮かんだのを見て、自分の態度が軍人らしからぬものだったと気づいたリウィウスは慌てて言い直した。リウィウス自身は当に軍籍を剥奪されて
「ええ、リウィウス殿なら適任ではないかと思うのです」
困惑を隠せないリウィウスに向けられたグルグリウスの表情と声は、まるでそれがとても良いアイディアであるかのように御満悦だ。しかし軍人時代のリウィウスがどういう兵士であったか、
「待って下さい、いくらなんでもそんな!」
「彼はその……
二人のホブゴブリンが
「
しかも実際にその尊い御方の御世話をしていらっしゃるのでしょう?
序列で言えば《
それがハーフエルフごときの世話をして何の問題があるというのです?」
笑みを浮かべて二人に反論するグルグリウスだったがその目は笑っていなかった。おそらく二人の抗議を不快に感じているのだろう。だがグルグリウス以外の人間たちからすれば二人の主張は
「た、確かにリウィウス殿はリュウイチ様の
今もルクレティア様の供回りを務めておられる。」
リュウイチ様……と、おっしゃられるのか……
グルグリウスはその名を初めて聞いたが、その名を漏らしたのはカエソーの失言だったかもしれず、あえて気づかぬふりをする。
「なら問題ないではありませんか?」
結論を急ぐグルグリウスにカエソーは苦笑を浮かべて首を振った。
「いやいや、彼がリュウイチ様の
まだ一か月も……もうすぐ一か月か?
ともかくそんなところです。
その前の彼は
グルグリウスは不可解そうに口をへの字に曲げる。そして数秒、カエソーを見下ろしたまま考えた。
「しかし、
「それは!
ルクレティア様がリュウイチ様にお仕えしておられるからです!
ルクレティア様の供回りを務めさせることで、高貴な御方に仕えるうえで身につけねばならぬ礼儀作法を身につけさせようというお
それはカエソーの推測にすぎなかった。実際、リウィウスもルクレティアもそのような考えはなかったし、リウィウスはリウィウスで「そうだったのか!?」と内心で驚きを噛みしめていたりする。
そんなリウィウス当人の驚きなど気づきもしないカエソーは続けた。
「それに、
リウィウス殿では抑えが利きません!」
カエソーらからすればそれはもっとも重要な要素だった。そもそもグルグリウスにペイトウィンの世話を依頼したのも、ペイトウィンに対する抑えを利かせられるのが《
カエソーの指摘に四人の百人隊長に加えリウィウス本人までもがウンウンと頷くと、グルグリウスは心底情けないといった表情を作ってみせた。
「おー、そんなことを気にしておられたのですか!?」
「大事なことです!」
念を押すカエソーにグルグリウスが向き直る。
「《
グルグリウスがまさか自分の主君を働かせようとするとは思ってもみなかったカエソーは思わず口を一文字に引き結び、一度身を引いてからすぐにまた身を乗り出した。
「確かに《
そうでしょうとも……グルグリウスは表情だけでそう同意を示し、頷いて先を促した。
「ですが《
イザと言う時、状況次第では対応の適切を迷うこともおありでしょう。
だいたい、その辺りをフォローするために、《
これにはグルグリウスも反論できなかった。カエソー自身、グルグリウスが《地の精霊》の眷属にしてもらう瞬間に立ち会っていただけあって、その辺りの事情は正確に理解している。また、グルグリウスにとっても《地の精霊》より人間社会に通じているという点は自身の存在意義として自認する部分でもあったのだ。
しかしカエソーの指摘もグルグリウスをして主張を
「力のことであるならば、リウィウス殿に
ハーフエルフなんて《
これにはカエソーのみならず全員が驚き、慌てふためいた。だが彼らがグルグリウスに何か言う前に、グルグリウスは腰を浮かせた彼らに手を
「それに礼儀作法とて問題にはなりますまい。
実際の世話はどうせ下級神官にさせるのでしょう?
リウィウス殿はただその場にいて、下級神官たちが
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