第1318話 禁制品
統一歴九十九年五月十一日、夜 ‐
グルグリウスの話を聞いた六人は一斉に目を大きく見開き、胸いっぱいに息を吸い込んだ。無論、グルグリウスの提案に感動してのことではない。彼らの顔には一様に、ロウソクの薄明かりでもアリアリと見て取れるほど驚愕の色に染まっていた。それだけグルグリウスの提案は突拍子もないものだったのである。
「マ、
「リウィウス殿に!?」
五人の軍人たちが驚いたのはそこである。魔法効果を有する魔導具は
しかし、只の普通の人間の戦闘力をハーフエルフに対抗できるほど高めるような魔導具など、ヴァーチャリア世界で複製できた試しはない。そのような魔導具はどれもゲーマーが《レアル》から持ち込んだものか、ゲーマーがスキルを用いて創り出したもの……すなわち
もちろん、そんな魔導具なんて簡単には手に入らない。既に知られている危険な魔導具は全てムセイオンに収蔵されていたし、大協約体制に組み込まれていない蛮族が魔導具を所蔵しているケースもあるが、そういった品々はいずれも宝物として厳重に管理されていて簡単には出回らないものなのだ。
ゆえに、本来なら「
そんなものを
話を聞いた彼らの頭が真っ白になってしまったとしても何の不思議もない。当のリウィウスはというと、予想もしていなかった
「何か問題でも?」
不可解そうに小首を
それはリュウイチから貰ったマジック・ポーチだった。一見すると幅六インチ(約十五センチ)、厚さ四インチ(約十センチ)、深さは八インチ(約二十センチ)ほどのサイズしかない只の革の鞄だが、蓋を開けたその口を通るものならどんなサイズのモノだって入れることができる魔法の鞄……
だがそれが魔導具であるという事実は、それを受け取ったリウィウスら八人の奴隷とルクレティアの九人、そしてアルトリウス・アヴァロニウス・アルトリウシウス子爵公子らのごく一部の人間しかしらない。実を言うとそれを渡したリュウイチ自身もそれが魔導具だとは気づいていなかったが、リュウイチが魔導具だと知らずに彼らに渡したことを受け取った彼ら自身知らなかった。リュウイチが特別に秘密裏にくれたものだと勘違いしている。
ことの経緯はともあれ、彼らは魔導具を持っていてはならないことになっている。厳密には彼らが魔導具を持つことを禁じる法律はないが、リュウイチには彼らに魔導具を渡さないでほしいとアルトリウスから要請され、リュウイチはそれを了承している。それなのにリウィウスが魔導具を持っていることが明るみになれば、リュウイチがアルトリウスとの約束を破ったことになっていまうし、リウィウスたちもポーチを没収されてしまいかねない。そんな事態は絶対に避けねばならなかった。
幸い、五人の軍人たちの目はグルグリウスに集中しており、リウィウスのジェスチャーはグルグリウスしか見ていなかった。グルグリウスは触れない方がいいことに触れてしまったらしいと気づくと、フムと小さく溜息をつくと、サッと視線をリウィウスから逸らす。
「も、問題ですとも!
それを一介の
「ですがぁ……」
カエソーが苦笑いを引きつらせながら言うと、グルグリウスは納得しがたいと言いたげに再びリウィウスへ視線を向ける。
リウィウスが纏っている
これ見よがしにミスリルの鎖帷子を付け、外出する時は更にミスリルの
不満げなグルグリウスの視線を追った五人はその行き着く先にミスリルの鎖帷子を見つけ、グルグリウスが何を不満に思っているのかようやく気付いて互いに目を見合わせる。
た、確かにこれは……
まさに聖遺物を身に着けている奴隷に新たに魔導具を持たせることを反対したところで、確かに納得しがたいだろう。
「た、確かに彼が着ている
カエソーが恨めしそうな視線をリウィウスに注ぎながらなんとかグルグリウスに追い縋ろうとすると、リウィウスはまさかリュウイチから貰った装備を取り上げられるのではないかと心配になり、無意識に鎖帷子をまさぐる。
グルグリウスはカエソーの言葉に驚いた。
「御存知だったのですか!?」
聖遺物が何なのか、それらがムセイオンに何故収蔵されねばならないか……それくらいの人間の常識はグルグリウスもインプたちの集合知を通じて知っている。リウィウスやヨウィアヌス、カルスの三人がミスリルの防具を身に着けていることも、まだインプだった彼が
これは、どういうことだ!?
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