第1257話 『勇者団』の行動予測(1)
統一歴九十九年五月十一日、晩 ‐
「閣下?」
もう一人の魔法使いが
「あ?……ああ、すみません。
果たしてどう対応したものかと思いまして……」
「戦闘になる……そうお考えですか?」
セルウィウスがやはり不安そうに尋ねた。セルウィウスは
とはいっても所詮はただの百人隊長……より高度な政治的判断や戦略眼などを持ち合わせているわけではない。部隊運用などはあくまでも彼の職掌ではあったが、今回のような状況での作戦指導や状況判断はカエソーに委ねるしかなかった。ことメルクリウス対応に関しては
「なるかもしれない……少なくともその準備はせねばなるまい」
カエソーは難しい顔をしたまま視線も動かさずに答えた。
「
「たしかに、《
だが状況が変わっている可能性がある」
「状況が?」
怪訝な表情を見せるセルウィウスの言葉に、カエソーは顔をあげて一度全員を見回した。
「
「それで
「
彼らの交渉の目的はおそらく、捕虜の解放と移動の自由を認めさせようというものだ」
「移動の自由……ですか?」
ルクレティアの問いにカエソーは跪いた姿勢のまま見上げ、頷いた。
「そうです。
昼間、
彼らは
ところが、その盗賊どもをぶつける前に我が
そこで彼らは別の場所で降臨を行おうと考える」
「どこでですか?!」
ルクレティアは取り澄ましたような厳かな雰囲気を作るのも忘れ、身を乗り出して尋ねる。無理もない、降臨はただでさえ世界にとっての一大事……そして今、彼女が
切羽詰まった様なルクレティアの質問にカエソーは苦笑いを浮かべる。
「それはまだ分かりません。
少なくとも
カエソーの答えにルクレティアはグッと何かを堪えるように胸元で手を握りしめ、口をキュッと引き締めて前のめりにしていた上体を引いた。
「ですが、彼らは海峡でアルビオーネ様と遭遇し、『海峡を渡ることはまかりならん』と告げられた……アルビオンニアから脱出できなくされてしまった」
「それでアルビオンニアから移動できるようにしろと……」
横からセルウィウスが独り言ちるように言うと、カエソーはコクリと頷いた。
「《
そして、その人物とルクレティア様が関係あると予想している」
カエソーがルクレティアに視線を向けると、ルクレティアはゴクリと固唾を飲み、身を硬くした。
「しかし
ルクレティアが怯えるような仕草をするのを見ていたリウィウスがすかさず横から口を挟んだ。カエソーはどこか呆れたような表情を見せながらリウィウスに視線を走らせる。
「その通りだ。
『
まさか《
まだムセイオンに知られていない強力な
ルクレティアの眼前に浮かぶ緑色に光る半透明の小人がフワリと円を描くように大きく揺れた。
「で、その人物と交渉するために、まず
「そうだったのだろうな……」
リウィウスが一人納得し、カエソーが相槌を打つとセルウィウスが急くようにカエソーの方へ身を乗り出す。
「ですが今、閣下は状況が変わったと……」
再び全員の注目がカエソーに集まった。
「うむ、先ほども言ったが
そしてまだどこかは分からないが、別の場所で降臨をやろうとしている。
ところが
『
「その中に降臨の儀式に必要な物が!?」
カエソーは何故か自信なさそうに苦笑いを浮かべながら視線をずらしつつ小さく頷いた。
「まだそうと決まったわけではないし、
だが仮にそうだったとしても、逆にそうでなかったとしても、彼らはこの旅のために用意した大量の物資を失い、旅を続けるのが困難になってるはずだ。
その予想が正しければ、『勇者団』は完全に行き詰ってしまっていることになる。アルビオンニア属州内での降臨はほぼ絶望的で属州から出るしかないが、アルビオーネが海峡を封鎖しているため海を渡ることはできない。仮に南蛮などアルビオーネの妨害を受けずに属州から出たとしても、旅を続けるために必要な物資が失われている。それどころかもしかしたら降臨を起こすために必要な物資さえ失われてしまったかもしれないのだ。
「あ、あの……」
全員が黙りこんでしまった中、その理由が理解できないヨウィアヌスは戸惑うように全員を見渡した後、躊躇いがちに口を開いた。
「それなら
奴らぁ属州から出れなくなっちまってる上に、旅を続けるための荷物すら失っちまったんだ。
もう
貴族様相手にこんなこと言っていいのかどうか……確信も持てないままオロオロとしつつ何とか言ったヨウィアヌスだったが、言い切る前にカエソーにフッと笑われて思わず口を閉ざしてしまう。
「……ダ、ダメなんですかい?」
ヨウィアヌスが思わず小声で隣のリウィウスに頼るとリウィウスも首を振ってみせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます