第1258話 『勇者団』の行動予測(2)
統一歴九十九年五月十一日、晩 ‐
「な、何がいけねぇんだい?
俺ぁ、そんな間違ったこと言っちまったとぁ思えねぇんだが……」
「わ、私が女だから分からないのかもしれませんが、ヨウィアヌスさんが言ったことがそれほど間違えているように思えません。
誰が言うのか……《
「
けど、追い詰められたヤツが皆が皆、大人しく観念するわけじゃあありやせん」
「ど、どういうこと……ですか?」
「
特に
盗賊どもも合わせりゃ、もう何百人も殺しちまってる。
こういう悪党ってなぁ、追い詰められりゃ大抵破れかぶれになっちまうんでさ。
実際アイツ等ぁ、切込み役が二人に魔法使いが二人、それをするのに都合のよさそうな陣立てだ」
いつもなら目を伏せがちに、どこか卑屈な態度をとってばかりなリウィウスが、今日ばかりはまっすぐルクレティアを見つめながらしゃべっている。その視線にルクレティアは何かを射すくめられたような不安を感じ、固唾を飲んだ。
「つまり、
「まだ決まったわけではありません!」
ルクレティアの言葉をカエソーが遮った。
「彼らが交渉を求めているというのは今も同じでしょう。
ですが、交渉が失敗した場合、その場で暴発してしまう危険性は高まっていると考えざるを得ません」
不安に揺れる瞳でカエソーを捉えたルクレティアは、カエソーの言う「暴発」の意味を想像して呻いた。
「つまり……戦になると……いうことですか?」
ルクレティアの脳裏にブルグトアドルフで目の当たりにした惨劇がよみがえる。戦をすれば人は斃れ、傷つく……そんなことは頭では分かっていた。だが実際に負傷して生死の境を
あんなことが、また、ここで!?
ルクレティアの顔からサァーッと血の気が引いていく。その様子を見ていたヨウィアヌスは慌てたように口をひらいた。
「け、けど、俺らにゃあ《
《
そう、《地の精霊》の加護があれば『勇者団』なんかこわくはない。これまでだって《地の精霊》は『勇者団』を撃退し続けてきた。『勇者団』が束になったところで、《地の精霊》にはまったく敵わなかったのだ。だからこそ『勇者団』は戦闘を諦め、交渉を求めて来たのではないか!? だがそれを訴えるヨウィアヌスはカエソーを始めヨウィアヌス以外の全ての男たちから睨まれて口を閉ざすことになった。
「……あ、あの……その……」
ヨウィアヌスが自分に向けられた視線の異様な雰囲気に飲まれて言葉を失うと、カエソーは深い溜息をついて言った。
「今回、《
その一言にヨウィアヌスは目を丸くする。
「な、何でです!?」
抗議するヨウィアヌスに、今度はセルウィウスが苦し気に説明し始めた。
「忘れたのか!?
この
リュウイチ様のことを知っているのは我々だけ、他は何も知らぬ者たちなのだ。
そいつらの前で、《
「「あっ……」」
ヨウィアヌス、そしてその隣で聞いていたカルスが同時に声を漏らした。
彼らは今、
その状況で《地の精霊》が魔法を使えば、リュウイチの秘匿の維持が難しくなるだろう。戦闘が起こり、そこで敵味方双方が魔法を使ったなんてことになれば、間違いなくその魔法を使った人物に注目が集まる。さすがにルクレティアが使ったなんてことを言っても誰も納得はすまい。謎の魔法使いの噂は確実に広まる。一週間もしないうちに、アルトリウシア全土に広まってしまうだろう。そうすればアルトリウシアで
「け、けど、
諦めきれないヨウィアヌスがなおも訴えると、今度はカエソーが目を閉じ首を振りながら否定した。
「今、アルビオンニアにはメルクリウスが居るかもしれないということになっている。
一方だけが、
だが両方が使ったりしたら、もう言い訳が出来ん」
「じゃ、じゃあ、もしも
その答は問うまでもない。だがそれでもカエソーは苦々し気に床を見ろ押しながら答えた。
「人目のないところなら、我々しかいないところなら《
「そうでないなら?」
この期に及んでなおも問うのは野暮でしかない。が、その野暮に今度はカエソーに代わってセルウィウスが答えた。
「
たったの四個
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