ガーゴイルとガレアートゥス
第1259話 グルグリウス召喚
統一歴九十九年五月十一日、夜 ‐
グルグリウス、グルグリウスよ……
『おお、お呼びでしょうか我が主』
『《
何を差し置いてもやってごらんに入れましょう。
さあ、何なりと御命じください』
うむ、じゃが事情が複雑で微妙を要する。
小難しい面倒が多くワシからは説明しきれん。
ただちに来るがよい……
ちょうどペイトウィン・ホエールキングを
グルグリウスはペイトウィンの寝室の前で控えていた
ペイトウィンが収容されているのは
わざわざ分けているのはメークミーとナイスの二人は既に現状を受け入れて従順な態度を示しているのに対し、ペイトウィンはそうではないからだ。彼らを安易に一つの宿舎に収容し、何かの拍子にバッタリ出くわしてしまった場合、どうなるか分からない。もしかしたらペイトウィンの影響でメークミーとナイスが再び反抗的な態度を示すようになるとも限らない。そしてそれはメークミーとナイスたち本人が恐れていることでもあった。
ちなみにカエソー・ウァレリウス・サウマンディウス伯爵公子とルクレティア・スパルタカシア・リュウイチアの二人もそれぞれ別に専用の幕僚宿舎が割り当てられている。
とっくに陽は暮れているため外は既に真っ暗だった。月明かりはあることはあるが、先ほどから強い風にあおられてガスが断続的に上空を通り過ぎるため、明るくなったり暗くなったりを繰り返している。逆にそうであるがゆえに目が暗闇に慣れ切らず、月明かりの届かない軒下や屋内の灯りの無い部分などは本当に真っ暗で何も見えない。
しかしグルグリウスには暗さなど苦にならない。高位の妖精である彼は高い魔力のおかげでいくつものスキルや魔法を常時発動させることができており、光一つない地下迷宮であったとしても全てを見通すことができるだろう。しかし、本人が見えていれば闇夜での活動で何の支障もないかというとそうでもない。グルグリウスには見えていても他の者には見えないのだから、グルグリウスが普通に歩いていると他の人間たちは暗闇の中から突然目を赤く光らせた巨漢が現れるのだから死ぬほど驚くことになってしまうのだ。これが人間の姿だからまだいいが、彼本来のグレーター・ガーゴイルそのままの姿であったなら、文字通り卒倒してしまうかもしれない。もっとも、グレーター・ガーゴイルの姿そのままだったら身体が大きすぎて建物に入りきらないのだが……
ともあれ、時々やけに大袈裟に驚く人間たちとすれ違いながら、はてさてこの暗さの中で人間を驚かさないように歩くにはどうしたら良いものかと考えながら、グルグリウスはついに《地の精霊》の待つ部屋へとたどり着いた。
「グッ、グルグリウス様、御入来~いっ!」
部屋の前にいた兵士の一人が
「失礼いたします!」
「おお! グルグリウス殿よくぞ参られた!!」
グルグリウスが入室し挨拶すると、即座にカエソーが両手を広げて歓迎する。室内には他にもルクレティアや
「
もしかすると閣下も関係している案件なのですかな?」
《地の精霊》に呼び出されて来た
「ええ実はそうなのです。
我らと《
今回も同じ問題について対応を話し合っているうちに、是非グルグリウス殿に御協力いただこうということになったのです」
『
『
ふーむ……と一瞬考えるフリをしながら即座に《地の精霊》と念話を交わしたグルグリウスはカエソーにニッコリと微笑む。
「分かりました、お話をお伺いしましょう。
ですがその前に、我が主に挨拶をさせてください」
「おお、もちろんかまいませんとも!」
カエソーがそう言ってグルグリウスの前から退くと、グルグリウスは胸に手を当て、ルクレティアの前に浮かぶ《地の精霊》の方へ向かってお辞儀した。
「グルグリウス、お召しにより参上いたしました」
口で挨拶の口上を述べつつ、念話で別のことを話しかける。
『
人間の貴族は平気で嘘をつく。インプだった記憶を持っているグルグリウスは、高貴な人間ほど、インプのような妖精に嘘をつくことに抵抗を覚えないことを良く知っていた。彼らはインプを都合良く利用するためならどんな嘘でも平気でつく。だから用心せねばならない。
今回グルグリウスは《地の精霊》によって呼び出された。仕事をしてほしい……それが《地の精霊》の頼みとあればグルグリウスは無条件で応じなければならない。報酬なんてものは既に膨大な魔力を与えられているのだから請求する必要は無い。だがカエソーは別だ。カエソーからは別に恩らしい恩を受けたことは無いし、魔力に至っては何をいわんやだ。カエソーから仕事を頼まれるのであれば、相応の報酬を請求せねばならない。
それなのに今回、カエソーは《地の精霊》と同じ目的、同じ問題に取り組んでいると言い、《地の精霊》の方はカエソーの言っていることが半分も分からないと言っていた。これはカエソーが何らかの
『いや、
また、尊き御方の妻となる
ゆえに、
しかし、ワシには理解できん人間の都合が色々あってワシには対応できそうにないのじゃ』
……なるほど、《
『承知しました。
人間にはとかくつまらぬ事情があるものです。
偉大過ぎる《
『うむ、人間のことは我ら
其方に任せようと思う』
『承りました。
誓って、ご期待に添いましょう』
グルグリウスはスッと上体を起こした。念話のやり取りは一瞬、周囲の人間にはその短時間でグルグリウスと《地の精霊》が会話していたとは気づけなかっただろう。
グルグリウスはそのまま部屋全体を見回し、ルクレティアに、そしてリウィウス達に順に御辞儀し、それからカエソーへと向き直った。
「お待たせしました。
では早速、お話をお伺いいたしましょう」
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