第386話 対応方針
統一歴九十九年五月五日、未明 - ブルグトアドルフ
「ハーフエルフ!?」
セプティミウス・アヴァロニウス・レピドゥスは驚き、思わず立ち上がった。
《レアル》で知られているエルフは
ただ、ハーフエルフは成長が遅く、実年齢数十歳でも肉体は子供のままなので今現在全員がムセイオンで隔離され、他の
「はい…でも、いずれも大した力は無かったとおっしゃっておられました。」
ルクレティアは自身でも信じられないように、だが《
「いや、お待ちください。
ハーフエルフで大した力はないという事はないでしょう!?」
「はい、私もそう思うのですが…《
考えてみれば
セプティミウスはよろけるように再び椅子に腰を降ろし、額の汗を拭った。
「な、なるほど…ですが、ハーフエルフがこんなところにいるとなると大問題です。これは子爵や伯爵どころか、レーマにまで報告しなければなりますまい。」
「やはり、そうなりますか?」
ルクレティアは身を乗り出して尋ねた。自分でも問題の大きさは分かっている。だが、問題が大きすぎて却って信じられなくなっていたのだ。こういう場合、問題を理解し、自分と同じ常識で考えてくれる他の人物を目の当たりにすることで、ようやく半信半疑だった問題に向き合うことができる。今のルクレティアの心理状態はそういう状態だった。
セプティミウスの考えが自分と同じであったこと…その安心感から、ルクレティアは無意識に
「ええ…いや、しかし、追い払うだけで済んで良かったのかもしれませんな。
下手に捕まえたり殺したりでもした日にはどうなっていたことか…ともかく、その事実だけは早馬で報告しておきましょう。」
降臨者の血を引く
そんな状況であるから、
そのハーフエルフを間違って殺しでもしたら、どんな騒ぎになるか分かったものではない。誰もその責任など取れないのだ。
いずれにせよ、そんなハーフエルフがムセイオンから遠く離れたこんな辺境に来ている。しかも、よりにもよって盗賊を率いて
「それはそうと…」
敵の中にハーフエルフがいた。その問題は大きいがそれに関しては一区切りついたと判断したルクレティアは話題を切り替えることにし、姿勢を正した。
「戦況はどうなのですか?
《
セプティミウスも話題を切り替えたかったのだろう、香茶を一口啜ってすぐに答えた。
「先ほど伝令が到着しました。
賊は既に一掃されたそうです。ただ…」
セプティミウスはもう一口、お茶を啜る。
「ただ?」
「賊はブルグトアドルフで罠を張っておったようです。
詳細はわかりませんが、どういうわけか
ルクレティアが目を丸くした。
「まあ!いったいどれほどの怪我人が!?」
「正確な数値は分かりませんが、
百人近い怪我人…その数値を聞いてルクレティアは一瞬茫然とする。百人という数字は大きくはないように一瞬思えた。つい最近までアルトリウシアで数千数万という被災者の様々な報告に接してきたせいで感覚が麻痺しているのだろう。だが、冷静に考えれば百人の怪我人というのは決して小さい数字ではない。
ルクレティアは胸に手を当て、一旦自分を落ち着かせる。
「ブルグトアドルフの町はそれほど大きい町ではなかったと記憶しております。」
「
「では住民の半分が怪我をしているということではありませんか!
殺された方も多いのでしょう!?」
「そう…でしょうな…」
「急いで救援に向かわなければ!」
ルクレティアは決然と立ち上がった。それを見てセプティミウスは慌てて止める。
「ま、待ってください!」
「何故です!?
もう敵はいないのですよ?」
「現在、
それに賊は去ったと言っても、またいつ戻ってくるかわかりません。
どうかお任せください。」
「怪我人は百人ちかくいるのでしょう!?
ならばそれで手が足りるわけないではありませんか!
怪我人に十分な手当てをしようと思ったら、怪我人一人に対して二人は必要になる。重傷者なら更に必要になることもある。ルクレティアの認識では仮に怪我人が百人いるというのであれば、単純計算で二百人は必要な筈だった。
そうした具体的な数値まではルクレティアの知るところではなかったが、額面より人数が少ないと言う程度の事は知っていた。であるならば、人数は足りるわけはない。
「確かに、
ですが向こうには既に
これで二百人近くにはなります。」
「でも、さきほど敵がいつ戻ってくるか分からないとおっしゃったではありませんか!?
ならば
「それはそうですが…ここをもぬけの殻にするわけにはいきません。」
「私たちを守るために
そうすれば怪我人を手当てする人数を確保できて、しかも守るべき
そうではありませんか!?」
「ルクレティア様!」
ルクレティアを守るために兵士を動かせないというのであれば、ルクレティア自身がブルグトアドルフへ赴く。そうすれば今ここにいる兵士以外の全員が怪我人の手当てに当たることが出来、なおかつルクレティアの警護もできるし、盗賊どもが戻って来ても町や住民たちを守ることが出来る。ルクレティアにとってそれはとても良いアイディアに思えた。実際、住民を救うことを第一に考えるのであれば、それは正しい選択と言える。
だが、セプティミウスは頑として受け入れなかった。
「守らねばならないのは
「っ!!・・・・・」
思わず声を荒げたセプティミウスの迫力にルクレティアは思わずたじろいだ。室内のすべての者たちが今、固唾を飲んでセプティミウスに注目していた。
セプティミウスは周囲の目に自分が
「大きな声を出して申し訳ありません。ですが、どうかお考え下さい。
今、ここを放置して我々が丸ごとブルグトアドルフへ行けばどうなりますか?
そりゃ住民たちは救えるでしょう。ですが、ここはどうなりますか!?
我々はこの
特に
それが賊の手に渡ってしまえば、それらが我々が居なくなった後で
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