第208話 奴隷たちの疑念
統一歴九十九年四月十八日、午前 - マニウス要塞陣営本部/アルトリウシア
リュウイチたちの暮らす
最初は洗濯や洗い物なんかは自分たちでやるとルクレティアや奴隷たちは言ったのだが、実際にやってみてもらうと一瞬で終わるしどんな汚れも洗うよりキレイに落ちてしまうものだから、リュウイチ関連の物とルクレティアや奴隷たちのお仕着せの服や装具などは浄化魔法に頼るようになっていた。使用済みのオマルも蓋をしたまま中身を見ることなくキレイにできてしまうのだから楽なものである。
で、個別に魔法をかけるのは手間なので一か所に集めてまとめて魔法をかけるようになったのだ。以後、洗濯物や汚れ物の一切合財がこの部屋に運び込まれるようになってしまっていた。
その
「ん?・・・なんだ
「あ?ああ、カルスか・・・この辺にカゴ無かったか?」
「カゴ?何に使うんだい?」
「
「ふーん、こっちじゃねぇかな?」
結局見つからずに探しているうちに、汚れ物を持ってきた他の奴隷仲間が同じように加わって行く。気づけば四人がかりでああでもないこうでもないとちょっとした騒ぎになっていた。
「ん?お前ぇら、何やってんだ?」
「ああ、ゴルディアヌス、カゴ探してんだがこの辺に良いの無かったか?」
「そっちのソレは違うのかい?」
「いや、アレはダメだ。汚ぇしみすぼらしすぎらぁ。」
「何に使うんだい?」
「赤ん坊の
「
何でそんなものを?」
「
しかし、リュキスカもリュウイチや彼らと同様に軟禁されている身である。何か特別な事情でもない限り外出などできるわけがない。そのリュキスカの外出の準備と聞いてゴルディアヌスは当然思い浮かぶ疑問を口にする。
「ああん?どこへ?何しに?」
「
「何でさ?」
「何でって・・・知らねぇが行くことになったらしいぜ?
今朝、クロエリアさんが
「クロエリアさんって
「他に
「
「「「「ええ!?」」」」
全員の手が止まり、視線が一斉にゴルディアヌスに集中する。
「さっき迎えに来てた子爵家の馬車で、もちろんクロエリアさんも一緒だ。」
「
「一緒じゃなかったぞ?」
「「「「「・・・・・」」」」」
奴隷たちは探し物そっちのけで話し始めた。
「べ、別々に行かれるとか?」
「たしかに、
「にしたって時間までずらす必要はあんめぇ?」
「馬車は分けるにしたって一緒に行った方が護衛だって少なくて済むよな?」
「ホントにティトゥス要塞へお出かけになんのか?」
「
「そもそも何しに行くんだよ?
「いや、それは聞いて無いし・・・」
「今日じゃねぇとか!?」
「わ、わざと置いて行かれたとか?」
「えー、嫌がらせ!?」
「
「待てお前ら、
リディア様に憧れておられる方がメデナ様の真似なんかするか?」
「
「だからって置いてってどうするよ?」
「「「「・・・・・」」」」
全員が黙って一拍置いたところでゴルディアヌスが一つの答を思い付いた。
「まさか暗殺じゃ!?」
「「「「暗殺!?」」」」
「ああ、一人出遅れちまった
「いやまて、何で
「
「今ならまだお付きも碌にいねぇし、狙いやすいよな?」
「ああ、なのにあんな良い
「
「だからって殺しちまって
「だから野盗かなんかの仕業に見せかけんのよ。」
「お前ぇらいい加減に・・・」
『君ら何してんの?』
「「「「「!!!」」」」」
「
あ、いやちょっと探し物を・・・」
『探し物?』
「へぇ、
『おう・・・さすが、気が利くねぇ!?』
彼らが自発的に探していると勘違いしたリュウイチが素直に感心すると、リウィウスは気まずそうに頭を掻いた。
「い、いやぁ・・・」
探し物を手伝っていた奴隷の一人アウィトゥスがリュウイチに尋ねた。
「あ、あの
『あ?うん、今朝ルクレティアから聞かされたけど?』
すると今度は別の奴隷ロムルスが質問する。
「その、
『ああ、ルクレティアは別の用事があるから先に行くって』
「じゃあ、
『そう聞いてるけど?』
「
『赤ん坊が一緒だろ?』
「「「「「・・・・・」」」」」
奴隷たちの質問に答えるリュウイチの様子は
その様子が逆に奴隷たちの不安をあおる・・・ひょっとして、さっき自分たちが想像していた事は現実になるんじゃないかと。
『それより今日の洗濯物とか汚れ物はもう入れてあるの?
入れてあるなら浄化魔法を・・・』
「ド、
ゴルディアヌスが思いつめたように声をあげ、皆を驚かせた。
『な、何!?』
「も、もしかしたら
『危険!?』
ゴルディアヌスの突拍子もない発言にリュウイチは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。
「おい、ゴルディアヌスよせ!」
「いや
『どういう事?』
ゴルディアヌスは自分たちがさっき話していた陰謀論について説明して聞かせた。
「・・・てなわけで
そりゃねぇだろ・・・というのがリュウイチの素直な感想である。だが、ゴルディアヌスは真剣そのものだったし、少なくとも彼は彼なりの忠誠心からそれを報告してきたわけだから一笑に
リュウイチはひとまず彼らの考えに付き合う事にした。
『うーん、でも行くなとは言えないしなぁ。』
「そもそも何で
『ああ、エルネスティーネさんが会いたいんだってさ。』
「「「「「
『うん、ほら、私が手ぇ出しちゃった女がどんな人か見たいんじゃない?』
「
『それもあるけど別件もあるらしいよ?
だから時間をずらして先にそっちを片付けるって・・・』
「
『馬車を用意するって言ってたけどな・・・クィントゥスさんの護衛付きで』
リュウイチは奴隷たちを無理やり黙らせることなく、彼らの疑問に丁寧に答える事で納得させる方法を選んだ。リウィウスは最初から陰謀論に懐疑的だったため、とっくに安心している・・・というより、陰謀論者の中心人物であるゴルディアヌスに呆れたような視線を送っていたが、ゴルディアヌスの方はまだ心配な様子だった。
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