第994話 アルトリウスとコト
統一歴九十九年五月十日、朝 ‐ 『
次だ!
「「「おっ、おっ、おっ、おおーーーー!!!」」」
どうだ!飲んだぞ!?
「すごいっ!!」
「飲んだぞ!?」
「今度はリクハルド卿の番だ!!」
「いけますかな!?」
「なんの!オレッチだってまだイケらぁ!
おら、注ぎやがれぇ!」
「「「「「おおおおーーーーーっ!!!」」」」」
「すごいぞ!まるで底なしだ!!」
「
「おお、行くぞ!」
「おおおリクハルドぉーーー!!」
「「「リクハルド!リクハルド!リクハルド!
お、お、お、おおおーーーー!!!」」」
「飲んだぁ!!」
「さすがはリクハルド卿!!」
「灰色のリクハルド!!」
ああ、まだ続くのかあ!?
「子爵公子閣下、もうその辺で」
まだだ!さあ次を注げ!!
「おおーーまだ続けるおつもりだぞ!」
当たり前だ!さあ注げ!注ぐのだ!!
あ、ああ!?
さあ、リクハルド卿!勝負はこれからだ!
うーん……
おお、
ああ……何だ……馬車?……どこへ行くんだ?……ああ、気持ち悪い……おい!ちょっと止めろ!止めてくれ……
ああ……風が冷たくていい気持ちだ……ああ?何だと?……ああ、わかった……乗る、乗ればいいんだろ?……
ん、んんーーー、何だ、着いたのか?
おおユルス!お前なんでここに?
んんーーーーっ……んんーーーっ……
おお、コト……元気だったかコト、会いたかったぞ……
アウルスは!?……ああそうか、寝てるのか……
大丈夫だ、騒がん……騒がんとも……
おおコト……会いたかったぞ……
んん……
んんーーーーーっ……
ああ、何だこの夢は……変な夢だ……いくら酒に酔ったからって、夢の中で家に帰らなくても……いや、夢の中くらいでないと帰れんか……ああ、このまま覚めねばいいのに……こうなれば一分一秒でも長く留まってやる……
ああ、せっかくの我が家なのに……夢から覚めてしまう……起きたくない……起きたら我が家の夢から覚めてしまう……
だが、不思議なくらいにパッと、一瞬で目は開いてしまった。先ほどまでの
あれ、ここは……どこだ?
薄暗くはあるが部屋の様子はどれもこれもハッキリ見えている。見覚えのある部屋だ。見覚えのある部屋だが、そこがどこかわからない。いや、そこがどこかは分かっているが、自分が何でそこにいるのかが分からない。
寝たままの姿勢で目だけを大きく広げ、アルトリウスが必死に状況を確認しようとしているとフフッと笑うような息遣いが聞こえ、耳にやけに生々しさを感じる声が飛び込んでくる。
「アナタ、起キタ?」
「!?」
驚いたアルトリウスが首を捻って声の方を向くと、そこには何日も見たいと思い続けていた顔が優しく微笑んでいた。
「コト!?」
「
そこは『
帰りたいと思っていた。会いたいと思い続けていた。だが、仕事が忙しくて帰れない日がずっと続いていた……
そうだ、何で俺はこんなところに……
疑問が次々と沸いてくるが、答を求めて記憶を
「う、うう~~んん……」
「アラアラ、イケナイ。」
アルトリウスはそのまま布団に身を沈めた。
ああ、なんてことだ……これは、二日酔いか?
目を閉じたまま額に手を当てる。
何とか起きねばと思うのだがどうにもなりそうにない。目を閉じていても頭がグルグルするのが止まらない。自分の息が猛烈に酒臭い。幸い、胃が空っぽなのか吐き気はしないが、だがまともに身動きできそうにないことだけは確かなようだ。
「
何とか起きようとするアルトリウスにそう優しく声をかけながら、コトは両手でアルトリウスを布団へ戻る様に抑える。
「ああ、コト!
ダメなのだ。急いで
コトに押さえつけられて諦めたように身体を脱力させながらも、それでもアルトリウスは何とか起きなければならない事を妻に伝える。
「大丈夫、心配ナイ、御役目、在リマセン。
御客人モ、オ酒、飲ミスギ、起キレマセン。」
だいぶ
そういえば昨夜はマルクスもかなり
「今日、ユックリ、大丈夫。
心、平ラニ、安心シテ、休ンデ、クダサイ。」
まるで喜びの歌でも歌うようなその言葉と共にアルトリウスの額に何か冷たいものが乗せられる。うっすら目を開けると、コトが冷えたお絞りをアルトリウスの額に乗せていた。先ほど枕元で聞こえていた水音は、お
全身を体毛で覆われているアルトリウスには、お絞りは体毛の無い人間ほどの効果はない。コボルトの短くも密生した体毛の断熱性は高く、水を弾くからだ。だが、それでも何もしないよりは、なんとなくだが気持ちが良い気がした。
「ああコト、すまない……私は……」
「イイノデス、
ここ数日、ずっと帰ってやれなかったことが気になっていたアルトリウスは詫びの言葉を口にする。しかし、それを言い切る前にコトがその言葉を遮った。コトの声はアルトリウスの耳にはどこまでも優しく響き、どことなく嬉しそうに歌うような心地よさがあった。
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