乳母の話
第1338話 “お話し”を前に……
統一歴九十九年五月十二日・朝 ‐
朝食の時間が終わり、ルキウス・アヴァロニウス・アルトリウシウス子爵とその息子アルトリウス子爵公子が退出した後もリュウイチは一人で
今日は日曜日だ。
リュウイチは
レーマ帝国には
その場にはリュキスカも同席する。やはり聖職者の目に留まれば後で面倒なことになるとも限らないからだ。リュキスカ自身は
ヒト種の中ではアルトリウシアで一番人気の娼婦ベルナルデッタと客を取り合って勝ち、そのまま客に
というわけで、リュキスカもまた陣営本部からの外出は許されていなかったし、外から聖職者を招き入れる際は人目を避けるためにもリュウイチと共に要塞司令部へ移動しなければならなくなったのだった。
とはいってもリュキスカにとって報告会の中身などあまり興味は無い。もちろん自分が住んでいた街のことは色々気にはなるが、彼女のいた《陶片》地区はアルトリウシアで最も被害を受けなかった地域だったし、そもそも話の内容がリュキスカの知りたいような内容ではなかった。物資の調達率がどうの、物価指数がどうのと言われてもピンと来ない。実に退屈極まりない。
そして貴族たちの方もリュキスカのことは正直言って持て余していた。何せ、父親が誰かも分からぬ娼婦の娘、礼儀作法など修めているわけもないし話が通じるかどうかも怪しい。このため貴族たちもリュキスカはそれこそリュウイチ以上に
しかし、それも今日からは変わることが予想される。
リュキスカは
フェリキシムスはリュウイチが降臨する前に生まれた子供。よって、降臨者の血を引いているはずがない。魔力無き
もしも自分の子、あるいは親戚の子にリュキスカ様から授乳していただければ、その子も魔力を得られるのでは!?
報告を聞いた全員が頭に思い浮かべたのはソレである。
これまで魔力を持つ子を儲けるには、降臨者やその子孫らと婚姻関係を結んで子を産ませるか、あるいは降臨者の共をして冒険するかだった。後者の方法は降臨者が居なくなってしまっていたし、今や大協約によって事実上禁じられているため現実的ではない。前者の方法もまずはムセイオンの聖貴族かリュウイチに女をあてがい、子を産ませてもらうしかないが、ムセイオンに
せっかく
リュウイチ様に子を残してもらうより、リュキスカ様に母乳を頂いた方が早い!
おそらく貴族たちはリュキスカに積極的にアプローチし始めることだろう。成功すれば一族の中から魔力を持つ聖貴族を輩出できるのだ。そうなれば一族の繁栄は間違いない。
だが、肝心のリュキスカ本人はまだ何も知らない。自分の息子がそんな魔力を持ってしまったことすら気づいていなかった。何も知らないまま貴族たちのアプローチを受けては流石にまともに対応できないだろう。
よって、リュウイチは要塞司令部に行く前に、リュキスカに会ってフェリキシムスが魔力を持ってしまったことやその理由と、これから起こりうることについて話をしておく必要があった。あと、昨日申し出があった女奴隷グルギアの献上についても話しておかねばならないだろう。
リュウイチはちょっと緊張していた。リュキスカの人生を大きく狂わせてしまっているかもしれないという自覚はもちろんあったし、グルギアの判断をリュキスカに丸投げしてしまった自分の無責任さ、卑怯さについても自覚があったからだ。
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